参議院法制局 Legislative Bureau House of Councillors

議員立法Stories

「ストーカー規制法改正法」等の立案を振り返って

A課長(入局17年目):平成28年秋の臨時国会では、第1部第2課(内閣委員会等担当)が担当した「ストーカー行為等の規制等に関する法律の一部を改正する法律案」が成立しました。それぞれ、感想を聞かせてもらえますか?まずは、課長補佐として立案作業の中核を担い、省庁との調整にも当たってもらったBさんから、法案の内容を紹介してもらいながら。

Bさん(入局13年目):ストーカー規制法は平成12年に参議院の議員立法として制定されましたが、ストーカー事案の件数は依然多く、また、従来の法規制では対応しきれない行為類型も見受けられることから、SNSの連続送信行為を規制対象に追加したり、警察がより迅速に禁止命令を出せる仕組みを設けたりする改正を行いました。警察庁などとは、実際の運用をにらみながら、法律上の文言や想定される政令などについて、様々な調整を行いました。担当者同士、時には激論を交わすこともありました。そういう経緯もありますから、無事成立したときは、やはり感激しました。

Dさん(入局2年目):ストーカー規制法は、学生向けの六法にも載っているようななじみ深い法律です。法科大学院生時代に憲法の講義の題材として扱った記憶がありますが、まさか自分が改正案に携わることになるとは思ってもいませんでした。改正案の立案過程でも、憲法との関係を検討する機会がありましたが、学生時代の勉強が少しは役に立ったように思います。自分が携わった条文が六法に載ったときは、とても感動しました。

Cさん(出向者):恥ずかしながら、私はストーカー規制法についてあまり詳しくなかったのですが、立法事実を調査したり、被害者支援に携わる弁護士の話を伺ったりする中で、この法律が果たしている重要な役割を認識しました。被害者の方を含む市民生活の安全・安心を確保するための一助となる法改正に携わることができて、よかったです。

A課長:ストーカー規制法改正案以外にも、色々な立案案件があったね。

Bさん:内閣委員会の所管は、私は勝手に「ゆりかごから宇宙まで」と言っていますが、子育て支援関係から宇宙開発関係まで幅広い分野にまたがりますので、色々な法案や修正案に携わることができ、自分の仕事と世の中との関わりを感じる場面が多くありました。今年の通常国会でも、国家戦略特別区域法など注目を集める案件が多くあり、ニュースに映ることもありましたので、家で子どもが見て喜んでいました(笑)。

Cさん:与野党から多数の立案依頼が寄せられたので、法案の検討、政党の会議への出席、資料作成などを、複数の案件について同時並行で行わなければならず、頭の切り替えに苦労しました。

Dさん:新しい分野の依頼が来たときは一から勉強をすることになるので大変でした。ただ、そういった勉強や実際の立案作業を通じて、自分の興味関心の幅が広がっていくことも、この仕事の魅力だと思います。

Cさん:印象に残ったものといえば、臨時会会期末のIR推進法案(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案)の修正でしょうか。緊迫した雰囲気の中で採決されたのは、忘れることはできません。

Bさん:修正案の立案は、厳しい時間的な制約の中で、既に論理的に完成された法案に、依頼議員の考え方をどうやってうまく溶け込ませるかが腕の見せどころであり、また悩みどころでもありますね。

A課長:修正案にせよ法案にせよ、議員立法の多くは、現行法ではうまくいかない問題について、法律によって突破口を開くためのものだから、その性格上、従来の法解釈・従来の常識的な発想のみでは対応できないものであることが多いね。一方で、従来の法体系の基本的な考え方をあえて崩すようなことはすべきではない。この両者の課題をクリアするためには、多角的な観点から、柔軟な発想で、知恵を出していかなくてはならない。そこに、議院法制局の存在意義があるのではないかな。

Bさん:そうですね。実際に、議員の政策を法制的に整理し、条文という形にしていく作業をするには、幅広い法律の知識に加え、緻密な論理を構築する力が必要だと感じています。
 一度お尋ねしてみたかったのですが、課長は、課案を作成していくに当たって、いつもどのようなことをお考えですか。

A課長:私も新米の課長なのでそんなに確たるやり方があるわけではないけど、多くの案を突き合わせて議論して、課の案にまとめていく、というプロセスが有効だと思っているので、まずは課員に考えてもらい、アイデアを最大限引き出すことを心がけていますね。もちろんその間、自分でも密かに案を考えてはいて、状況に応じて案を示すこともあるけど。いずれにしても、依頼者の思いを実現することができ、かつ、法的に合理的な説明が可能な案をどのように作り出すことができるかという点において、年次の差は関係ない。色々な案を出し合って様々な観点から比較して、総合的により優れた案が残っていく。今はそのように考えています。

Dさん:私もまだ入局2年目の若手ですが、積極的にもっと案を出してほしいという課長からの空気を感じます(笑)。実際、説得力のある意見であれば若手の意見であっても尊重されるので、やりがいを持って仕事に取り組める環境だと思います。幸いなことに、当局は上司や先輩職員との距離が近いので、ときには相談に乗ってもらいながら、仕事に取り組んでいます。

Bさん:課の全員が一つのチームとなって議論しながら仕事を進めていくところが参議院法制局の特徴ですね。そして、それを可能にしている、年次に関係なく積極的に議論に加わることができる自由闊達な雰囲気、良好な人間関係も大きな特徴だと思います。

A課長:議員立法を支える仕事が自分に合っているかもしれないと思ったら、迷わず説明会に顔を出すなり、議員立法のプロセスについて書かれた本を読むなりして、更なる情報収集に努めるとよいと思います。自らの可能性を追求していくためには、アンテナを広く張り、具体的に行動することが重要だと思います。