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宇宙にまつわる法令





 令和2年5月、自衛隊初の宇宙専門部隊として、航空自衛隊に宇宙空間を監視する「宇宙作戦隊」が発足しました。宇宙空間の監視といっても、宇宙人に地球が侵略されないよう監視しているわけではなく、不審な人工衛星を監視したり、スペースデブリ(役目を終えたロケットの部品など)が日本の人工衛星にぶつかる危険がないかを監視したりすることが主な任務とされています。



 さて、この宇宙作戦隊が監視している「宇宙空間」ですが、法的には一体どの範囲を指すのでしょうか。我が国の法律や宇宙に関する国際条約では、宇宙について「月その他の天体を含む宇宙空間」と規定しているものの、実は、どこまでが地球でどこからが宇宙空間となるのかは明らかではありません。宇宙航空研究開発機構(JAXA)のホームページなどでは、一般的には大気がほとんど無くなる地表からの高度100kmから先が宇宙とされていると紹介されていますが、現在のところ、国際法上の合意がないことから国際条約で「宇宙空間」は定義されておらず、これを受けて我が国の法律でも厳密な定義を置いていません。そのため、宇宙の範囲は、法的には確定していないという状況にあるのです。



 宇宙は、今も昔も人類の憧れの存在ですが、一方で、各国が自国の威信をかけ、国家的事業として開発する対象という側面もあります。特に東西冷戦下では、米ソによる安全保障を念頭に置いた宇宙開発競争が過熱し、これに対する国際社会の不安も高まりました。こうした状況を踏まえ、国連では「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」(宇宙条約)を始めとする「国連宇宙5条約」が採択されました。その代表格であり、日本も昭和42年の採択当初から加盟している宇宙条約は、今も「宇宙の憲法」と呼ばれており、宇宙空間について、探査利用の自由(第1条)や国家よる取得の対象とならないこと(第2条)、平和的利用(第4条)などを規定しています。



 我が国でも、宇宙条約の趣旨を踏まえつつ、国家的施策として宇宙の研究開発を本格的に進めるべく、その体制の整備のため「宇宙開発委員会設置法」(昭和43年)や「宇宙開発事業団法」(昭和44年)などの法律が制定されました。そして、宇宙開発事業団法の制定の際に衆議院で採択された「わが国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議」(いわゆる平和利用決議)や参議院の附帯決議には「平和の目的に限り」という文言があり、これは政府の答弁書などで「非軍事」を指すものと解釈されてきました。



 その後、時代が進むとともに、人工衛星を利用したGPS、放送サービス、気象観測など、宇宙に関する技術が様々な分野で活用されるようになり、宇宙は私たちの生活に密接に関連するようになってきました。そこで、平成20年には、法制面でも「研究開発」中心であった宇宙政策を実用的な「利用」にシフトし、「宇宙開発利用」を国家戦略として位置付けた「宇宙基本法」が制定されました。この法律では、宇宙開発利用は「日本国憲法の平和主義の理念にのっとり」(第2条)、「我が国の安全保障に資するよう」(第3条)行われるとしており、専守防衛の範囲内であれば、防衛目的での宇宙開発利用ができることが明確になりました。



 加えて、宇宙基本法では、民間事業者による宇宙開発利用の促進(第16条)がうたわれていますが、実際にも、人工衛星や打上げ用ロケットの小型化・低価格化により宇宙活動への参入障壁が下がり、民間企業による宇宙ビジネスの展開が期待されるようになってきました。そこで、平成28年には、宇宙ビジネスの振興を主眼とする2つの法律が制定されました。このうち、「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」(宇宙活動法)は、民間企業による人工衛星の打上げ・管理に関する国の許可制度や、事故が起きた場合の賠償制度などを設けています。もう1つの「衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律」(衛星リモセン法)は、人工衛星に搭載された装置を用いて地球の表面を観測した衛星リモートセンシング記録は農業、防災等の幅広い分野で活用が期待される一方、それを手に入れた国際テロリスト等により悪用される懸念もあることから、その適正な取扱いについて規定しています。



 近年では宇宙ビジネスも進展し、日本でもスペースデブリの除去や人工流れ星といった全く新しい宇宙ビジネスが登場してきました。さらに、アメリカでは、初の民間有人宇宙船が打上げに成功し、日本の有名実業家がこの民間企業の宇宙船での月周回旅行を企画しているというニュースも耳にするようになりました。いつかこういった宇宙旅行が当たり前になる頃には、安全に旅を楽しむことができるようにするための宇宙船の操縦免許や、安心して宇宙旅行を契約できるようにするための運賃についての規制など、様々な法整備が必要になってくるのかもしれません。



  • ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。