定義の変遷
情報通信技術・情報処理技術やそれらを用いた産業の急速な発展に伴い、法律の中に新しい用語が定義されてきていることについては、過去にこのコーナーで紹介されており(「インターネットの定義」〔『立法と調査』第414号〕)、実際第213回国会において提出された法案でも、「スマート農業技術」、「アプリストア」、「検索エンジン」等といった用語が新たに定義されているところです。このように、新しい用語が定義されることもある一方で、既存の法律上定義されている用語も、その内容は技術の進歩等に応じて改正され、変化していっています。
例えば、「道路交通法」の「自動車」の用語については、令和5年の同法改正により、自動運転レベル4に相当する、運転者がいない状態での自動運転(特定自動運行)についての規制を設けるための対応として、従来は「原動機を用い、かつ、レール又は架線によらないで運転する車・・・」と定義されていたのが「原動機を用い、かつ、レール又は架線によらないで運転し、又は特定自動運行を行う車・・・」と、人が運転することを前提にした定義から完全自動運転によることも含む内容に改正されています。
また、このような既存の定義に新たな内容を付加する改正だけでなく、時代の変化に合わせて既存の定義から内容の一部を除外する改正も行われてきています。
- ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2024年7月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。
例えば、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」において規定されている「風俗営業」の定義については、平成27年の同法改正により「ダンスホールその他設備を設けて客にダンスをさせる営業」がその内容から除外されました(※接待・飲食を伴うものについては、引き続き「風俗営業」とされています。)。従来、客にダンスをさせる営業は、政府によれば「適正に営まれれば国民に健全な娯楽を提供するものとなり得るものである一方、営業の行われ方いかんによっては、善良の風俗と清浄な風俗環境を害し、又は少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがある」として「風俗営業」として規制されてきたところ、学校教育においてダンスが取り入れられる等ダンス文化が広く国民に受け入れられるようになっていること等も踏まえ規制の見直しの検討が開始され、関係団体による営業の健全化の努力等もあり風俗上の問題が生じている実態は見られないとして「風俗営業」から除かれることとなったとされています。
このように、法律上の用語自体は変わらなくても、技術の進歩や国民の意識の変化等に合わせて、その内容は少しずつ改正されていっています。今回紹介した用語以外にも法律上定義された用語の改正の沿革やその背景を追いかけてみると、そこから技術の進歩や国民の意識の変化等世の中の移り変わりを垣間見ることができるかもしれません。