参議院法制局

資格の性格~業務独占と名称独占~

 我が国には、数多くの国家資格があります。次のA及びBは、とある観点から我が国の国家資格の一部を分類したものですが、どのような観点から分類しているでしょうか。

A:弁護士・医師・公認会計士・教育職員・騎手・測量士
B:保育士・栄養士・調理師・技術士・計量士・マンション管理士

 Aの資格についてはいずれも、当該資格を有しない者は一定の業務を行うことができない(業務独占)旨、法律上規定されています。例えば、弁護士については、「弁護士・・・でない者は、報酬を得る目的で・・・法律事件に関して・・・法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」(弁護士法第72条本文)とされています。

 一方、Bの資格については、Aの資格のような業務独占の規定はありません。その一方、資格を有しない者がその名称を用いてはならない(名称独占)旨が規定されており、例えば、保育士については、「保育士でない者は、保育士又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない。」(児童福祉法第18条の23)とされています。

 さて、このような国家資格の性格に関連して、最近あった興味深い事例を御紹介します。

 通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律(平成29年法律第50号)により通訳案内士法が改正され、それまで「業務独占」資格だった通訳案内士が、業務独占の規定がない「名称独占」資格となりました。その目的は、「幅広い主体による通訳ガイドを可能とするため」とされ、「訪日外国人旅行者数が急増する中で、その〔=通訳案内士の〕数が不足をしており、またそのニーズも多様化している」ことを背景にしていると説明されています。

 一方、国会審議においては、業務独占の廃止に伴い通訳案内業務の質を確保することの重要性も指摘されており、対応策として、「通訳案内士を検索できるデータベースの構築」や「無資格で通訳案内業務を行う方々に対し・・・全国通訳案内士向けの研修の受講等を促す」ことなどが政府答弁において示されました。

 そもそも、国家資格の制度については、規制改革の観点から見直しが求められてきました。近年においては、デジタル社会の進展に伴い、業務の一部をデジタル技術によって行うことを業務独占の範囲から除外するといった、業務独占の見直しの方向性が示されるなどしています。

 昔からなじみのある資格であっても、社会の変化などに伴いその性格が変わっていた、といったことが、今後も数多くあるかもしれません。

  • ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2023年7月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。