条文に用いられる記号
我が国の法律の条文は、日本語で書かれ、基本的には、漢字と平仮名と片仮名で表現されるのはいうまでもありません。これらのほかにも、句読点、算用数字(典型的には、項番号)、丸括弧やかぎ括弧なども用いられます。また、条約の条文を引用するときなどに、アルファベットやローマ数字が用いられることもあります(例えば、著作権法第 95 条第2項に「・・・実演家等保護条約第十六条1(a)(i)の規定に基づき・・・」と規定されています。)。
こうしたもののほかにも様々な記号が用いられていますが、以下、珍しい例をいくつか見てみたいと思います。
まず、「○」の例です。公職選挙法第 46 条の2第1項に次のような例があります。いわゆる記号式投票と呼ばれるものです。
「地方公共団体の議会の議員又は長の選挙の投票・・・については、地方公共団体は・・・、条例で定めるところにより、選挙人が、自ら、投票所において、投票用紙に氏名が印刷された公職の候補者のうちその投票しようとするもの一人に対して、投票用紙の記号を記載する欄に○の記号を記載して、これを投票箱に入れる方法によることができる。」
次に、「×」の例です。投票関係の条文で例を見つけることができます。最高裁判所裁判官国民審査の投票の方式について規定した最高裁判所裁判官国民審査法第 15 条第1項では、次のように定められています。
「審査人は、投票所において、罷免を可とする裁判官については、投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に自ら×の記号を記載し・・・、これを投票箱に入れなければならない。」
古い例を見てみると、公職選挙法では「((同時に行う選挙の範囲))」のように二重丸括弧が用いられていたこともありました(なお、公職選挙法の一部を改正する法律(平成 12年法律第 62 号)により、公職選挙法における二重丸括弧による括弧書きは削られました。)。
なお、変わり種として、「○麻*1」(麻薬及び向精神薬取締法第 31 条)や、「○向*2」(同法第 50条の 19)もあります。
ところで、法律案の立案作業においては、条文を一文字一文字声に出して読む作業があります(この作業を読み合わせといいます。)。「○」は、「まる」でしょうが、「。」(句点)と読み分けるとすれば「まるじるし」などと読んだ方がよいかもしれません。「×」は、「ばつ」あるいは「ばってん」なのか何なのか迷うところです。ましてや、上記の「麻*1」は、一言では表現しようがなく、「麻薬の麻の字を○で囲んだもの」とでも読むしかないのかもしれません。立案当時の読み合わせでこうした記号がどのように読まれていたのか気になるところです。
*1○麻の正式な表記は麻の字を○で囲んだものです。
*2○向の正式な表記は向の字を○で囲んだものです。
- ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2021年7月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。