法律の[窓]

青函トンネルと津軽海峡

 北海道と本州を結ぶ青函トンネルは、世界最長の海底トンネルで、昭和63年3月に開通し、平成28年3月には北海道新幹線が開業しました。今のところ新青森から新函館北斗までとなっている北海道新幹線の路線も、将来的には札幌まで到達する予定で、ますます移動が便利になることが見込まれます。

 このように、本州・北海道間の往来に大きな役割を果たしている青函トンネルの海域(津軽海峡)は、全て我が国の領海であると思われる方が多いかもしれませんが、実はそうではありません。

 領海及び接続水域に関する法律(昭和52年法律第30号)では、第1条において領海は基線からその外側12海里とされているところ、附則第2項で、当分の間、宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡東水道、対馬海峡西水道及び大隅海峡(特定海域)については、領海は、基線からその外側3海里までとされています。その趣旨は、海洋国家及び先進工業国として、国際交通の要衝たる海峡における自由な航行を保障することが総合的国益の観点から不可欠であることを踏まえたものと説明されています。

 附則第2項が適用される結果、津軽海峡のうち基線から3海里を超える部分は、我が国の領海外(公海ないし排他的経済水域・接続水域)となります(【参考図】参照。なお、領海、接続水域、排他的経済水域、公海等の概念については、海上保安庁ホームページ(https://www1.kaiho.mlit.go.jp/JODC/ryokai/zyoho/msk_idx.html)参照)。津軽海峡の海底下約100mの地中を通る青函トンネルには、我が国の領海だけでなく、領海外の海底下部分を通る部分(具体的には、トンネルの中央部約9.7kmの部分)も存在していたのです。

 青函トンネルの工事が進められる中、特に後者の領海外部分の法的な位置付けが問題となりました。そもそも、領海には当然に我が国の主権が及びますが、領海外部分にあるトンネルについても、我が国の立法権や行政権、司法権が及ぶのでしょうか。
 
 この点については、国の領土から連続して掘削しているトンネルについては、その国の領土と同様に管轄権を行使することができるというのが国際法上の解釈であり、青函トンネルも、その両端は我が国の領土であるため、領海外部分であっても我が国が管轄権を有し、立法権、行政権及び司法権が及ぶことになります(昭和58年3月22日衆議院本会議中曽根内閣総理大臣答弁)。
 
 では、我が国の管轄権が及ぶ場所であるとして、仮に領海外部分のトンネル内で事件や事故が起こった場合、本州(青森県)側と北海道側のどちらの警察が対応することになるのでしょうか。通常であれば、事件や事故が起きた区域が属する都道府県の警察が対応することになりますが(警察法第36条第2項参照)、領海外部分は、そもそも我が国の領土ではないため、どの地方公共団体の区域に属するのかという問題があったのです。

 この問題については、青函トンネルの工事が始まった時点では解決されておらず、事後的に政府によって整理されることになりました。政府は、トンネルの位置、トンネル内への交通関係、行政上の便宜その他諸般の実態的事情を総合的に勘案の上、昭和63年2月の閣議決定・自治省告示において、青函トンネルに係る未所属地を市町村の区域に編入する処分(地方自治法第7条の2)を行いました。具体的には、本州と北海道の中間線から本州側の領海外部分までは青森県東津軽郡三厩村(みんまやむら)(当時。現在は、東津軽郡外ヶ浜町)に、北海道側の領海外部分までは松前郡福島町に、それぞれ編入されました。そのため、事件・事故が発生した場所が領海外部分の本州側であれば青森県警察が、北海道側であれば北海道警察が対応することになります。

 青函トンネルの建設工事には、莫大な費用と多大な労力、そして長い時間を要したことはよく知られていることだと思いますが、法的な意味でも様々な問題があり、その調整・解決に尽力された先人の方々の苦労の上に成り立っていることにも思いを致しているところです。




【参考図】
特定海域での領海の限界線を表示した図。濃青色は内水、青色は領海を表す。出典:海上保安庁ホームページ(https://www1.kaiho.mlit.go.jp/JODC/ryokai/tokutei/tokutei.html



※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が2020年6月に編集・執筆したものです。なお、本記事の無断転載を禁じます。

戻る


ページの先頭へ