南極地域の環境の保護と我が国の法律
南極地域にはコウテイペンギンに代表されるように特異な動植物相があり、原生的な自然が維持されている大変貴重な地域です。このような南極地域を保護するため、昭和34年、領土権の凍結、軍事利用の禁止、科学観測のための国際協力を目的とする南極条約が採択され(我が国の締結は昭和35年)、以来、南極地域はどこの国にも属さず、国際的な科学観測の場として利用されてきています。
南極条約の目的を達成するため、条約により設置された南極条約協議国会議は昭和39年に南極地域の動植物相の保存のための措置をとるよう締約国に勧告し、これを受け、南極地域のほ乳類や鳥類の捕獲等を禁止する措置について、新たな国内法を整備する必要が出てきました。しかし、なかなか法整備は行われず、昭和57年になってようやく南極地域の動物相及び植物相の保存に関する法律(旧南極法)が制定されました。
このように法整備に時間を要した理由としては、まず、南極地域に関する事項に関係する省庁が多く(南極観測の関係は文部省(現・文部科学省)、環境保全は環境庁(現・環境省)、通関は大蔵省(現・財務省)など)、所管省庁をどこにするかの調整に時間がかかったようです(南極条約に基づく国際協力という観点から、外務省の所管とされました)。このほか、我が国の法令の効力が及ぶ範囲は、原則として、我が国の領土、内水、領海及び領空とされているところ、南極地域という我が国の領土等ではない地域におけるほ乳類や鳥類の捕獲等を国内法上どのように規制するのかが難しかったようです。結局、国民に対し、属人的に、南極地域における一定のほ乳類や鳥類の捕獲等を原則として禁止する規定が設けられ、学術研究等のため捕獲等が必要な場合には外務大臣の許可を受けることとされました。
その後、地球環境のモニタリングなどの観点から南極地域の環境の重要性が注目される一方、基地活動や観光利用の増加による環境影響も懸念されたため、平成3年に環境保護に関する南極条約議定書が採択され、同9年には旧南極法は廃止され新たに南極地域の環境の保護に関する法律が制定されました。同法では、地球環境保全の観点から所管が環境庁(現・環境省)とされるとともに、法の適用範囲が日本国内に住所を有する外国人等にも拡大され、南極地域における行為の制限について、動植物相の保存のための制限のほか、探鉱・採鉱の制限、廃棄物の適正な処分などが定められ、また、環境庁長官(現・環境大臣)の確認を受けた計画に含まれる調査、観光等以外の活動は原則的に禁止とされました。
南極地域をめぐっては、近年の観光客の増加に伴う環境への影響など、現在も様々な課題がありますが、今後とも南極地域の環境が適切に保護されるよう願っています。
- ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。