目的規定と趣旨規定
法律には目的規定又は趣旨規定が第1条として置かれることが一般的です。平成29年~令和元年の3年間で成立した54本の新規制定法(一部改正法などを除く。)のうち、39本が目的規定を、9本が趣旨規定を置いています。
目的規定は、その法律の制定目的を簡潔に表現したものです。一方、趣旨規定は、法律の内容を要約したもので、制定の目的よりも、その法律で定める内容そのものの方に重点があるといえるでしょう。これらの規定は、それ自体は具体的な権利や義務を定めるものではありませんが、目的規定は、裁判や行政において、他の規定の解釈運用の指針となり得ます。
目的規定は、上記のほか、立法を行うに至った動機を述べたり、直接の目的だけでなく究極的に大きな公益に資する旨を明記したりすることで、その法律の必要性や意義を強調する手段となることも少なくないようです。平成26年に成立した「健康・医療戦略推進法」(平成26年法律第48号)第1条は、628文字もある非常に大部の条文ですが、骨格だけ示すと、「この法律は、・・・に鑑み、・・・定めることにより、・・・を推進し、もって・・・に資することを目的とする。」となります。「・・・に鑑み」の部分が立法の動機、「・・・定めること」は目的達成の手段(=法律の中心的な内容)、「・・・を推進」が直接目的、「・・・に資すること」が究極的な目的を述べたものと整理することができます。「鑑み」までで389字を数え、立法の動機をかなり手厚く述べた規定であることが分かります。
こうした規定は、新規制定法に置かれることが一般的で、一部改正法などに置かれることは多くはありません。改正法自体は、施行されれば改正対象の法律に「溶け込んで」しまい、後はいわば抜け殻のような状態になるからということでしょうか。しかし、目的規定・趣旨規定を置くかどうかは、最終的には、その法律の内容、性格、制定理由などを総合的に勘案し、その必要性を判断して決定することになります。実際、整備法・施行法(本体の法律の施行に伴う他法改正や経過措置を定める法律)には趣旨規定が置かれることもしばしばですし、わずかですが趣旨規定が置かれた一部改正法もあります。
消費税率の引上げ等を内容とする「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(平成24年法律第68号)第1条は、改正の趣旨として「世代間及び世代内の公平性が確保された社会保障制度を構築することが我が国の直面する重要な課題であることに鑑み、社会保障制度の改革とともに不断に行政改革を推進することに一段と注力しつつ経済状況を好転させることを条件として行う税制の抜本的な改革の一環として・・・」と規定しています。増税のように必ずしも人気の高くない内容の法律であっても、その必要性を訴えようとする法案起草者の必死の気持ちが伝わってくるようです。
- ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。