国民の責務
責務規定とは、法律の目的や基本理念の実現のために各主体の果たすべき役割を宣言的に規定するものです。国や地方公共団体の責務を規定する法律はよく見られますが、中には、私たち国民に対する責務を規定している法律もあります。
それでは、私たち国民の責務を定める規定には、どのようなものがあるのでしょうか。
まず、「国民は、...国又は地方公共団体が実施する海洋に関する施策に協力するよう努めなければならない」(海洋基本法(平成19年法律第33号)第11条)といった国又は地方公共団体が講ずる施策に協力することをその内容とするものがあります。
また、「国民は、生きることの包括的な支援としての自殺対策の重要性に関する理解と関心を深めるよう努めるものとする」(自殺対策基本法(平成18年法律第85号)第5条)といった一定の事柄に対する理解を深めることを内容とするもの、「国民は、家庭や子育てに夢を持ち、かつ、安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現に資するよう努めるものとする」(少子化社会対策基本法(平成15年法律第133号)第6条)といった法の目指す社会の実現に資し、又は寄与することを内容とするものもあります。
さらに、国民に一定の行動をするように促すことを内容とするものもあります。「国民は、...必要に応じ、がん検診を受けるよう努め...なければならない」(がん対策基本法(平成18年法律第98号)第6条)、「国民は、...生涯にわたり健全な食生活の実現に自ら努める...ものとする」(食育基本法(平成17年法律第63号)第13条)などです。
このように、責務規定は、基本法に規定されることが多いものですが、個別法に規定されているものもあります。「国民は、...廃棄物の減量その他その適正な処理に関し国及び地方公共団体の施策に協力しなければならない」(廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)第2条の4)などです。個別法に規定されている責務は、主語が、「住民は」あるいは「消費者は」というように、当該個別法と直接関係する者に係る責務として規定され、あるいは、「協力しなければならない」というように努力義務より強い規定となっていることがあります。基本法と比べて、個別法の方が、法の内容がより具体的なので、責務の内容もより具体的になるのかもしれません。
これらの責務規定に違反したからといって罰せられることはありません。とはいえ、法律で国民の私生活まで規定することは踏み込み過ぎであるとか、余計なお世話であるという意見もあるかと思います。しかし、責務として私たち国民に課されている以上、自分にどのような責務が課されているかを調べてみるのもよいかもしれません。
- ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。