調整規定
ある法律で他法の改正を行う場合、施行日の先後により、改正の対象となる規定の姿が変化することがあります。このような場合に対応する手法の一つに、調整規定というものがあります。
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律(平成24年法律第27号。以下「A法」という。)と暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の一部を改正する法律(平成24年法律第53号。以下「B法」という。)を見てみましょう。
A法は、いわゆる労働者派遣法の題名を「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」から「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に改正しています。一方、B法の附則第5条第4号を見てみると、
第五条 次に掲げる法律の規定中「限る。)」の下に「及び第五十二条」を加える。
四 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律第六条第一号
と規定され、A法による改正前の題名が引用されています。続けてB法を見ていくと、附則第31条第2項に次のような調整規定があります。
(調整規定)
第三十一条 〔略〕
2 労働者派遣法等一部改正法〔A法(題名の改正に係る部分)〕の施行の日が附則第一条第一号に掲げる規定〔(B法附則第5条及び第31条第2項)〕の施行の日前である場合〔略〕には、附則第五条第四号中「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」とあるのは、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」とする。
ここで、関係する規定の施行期日を定めた規定を見てみると、A法(題名の改正に係る部分)もB法(附則第5条及び第31条第2項)も「公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日」とされています。
A法がB法よりも先に施行された場合には、B法が施行される時点では既にA法による題名の改正後であるため、B法附則第5条第4号で引用している題名とA法による改正後の題名が合致しないことになります。このような不都合が生じることをあらかじめ見込んで、B法附則第31条第2項のような調整規定を設けているのです。
B法附則第31条第2項は、「A法の施行の日がB法の施行の日前である場合」という、言うなれば条件付きの規定であるため、B法がA法よりも先に施行された場合にはこの規定が適用されることはありません。実際にこのような条文を起案するときは 神経を使いますが、条件に合致する場合にのみ適用される便利な規定ではあります。
- ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。