人名に用いる漢字
子の名に用いることのできる漢字(人名用漢字)について、法令で制限があることを御存じでしょうか。
子の名については、法律上、「常用平易な文字を用いなければならない」と規定されています(戸籍法第50条第1項)。この「常用平易な文字」の範囲は、法務省令で定めるものとされており(同条第2項)、具体的に、戸籍法施行規則第60条において、①常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)に掲げる漢字(括弧書きが添えられているものについては、括弧の外のものに限る。)、②別表第二に掲げる漢字、③片仮名又は平仮名(変体仮名を除く。)、と規定されています。そのため、この①と②の漢字については、「常用平易な文字」として子の名に用いることができる人名用漢字であるということになります。
この戸籍法第50条第2項の法務省令への委任の趣旨について、最高裁判所は、「当該文字が常用平易な文字であるか否かは、社会通念に基づいて判断されるべきものであるが、その範囲は、必ずしも一義的に明らかではなく、時代の推移、国民意識の変化等の事情によっても変わり得るものであり、専門的な観点からの検討を必要とする上、上記の事情の変化に適切に対応する必要があることなどから、その範囲の確定を法務省令にゆだねたもの」と示しました(平成15年12月25日最高裁判所第三小法廷決定)。その上で、最高裁判所は、同条第1項は、「単に、子の名に用いることのできる文字を常用平易な文字に限定する趣旨にとどまらず、常用平易な文字は子の名に用いることができる旨を定めたものというべき」であり、現在の人名用漢字以外の漢字であっても社会通念上明らかに「常用平易」なものであればこれを用いることを認めるという新判断を示しました。
こういった最高裁判所の判断も踏まえ、平成16年9月に②の戸籍法施行規則の別表第二が改正され、新たに488字が追加されました。この改正により、「苺」「蕾」「絆」「琥」「珀」などの字を子の名として用いることが可能になりました。さらに、平成22年11月に常用漢字表が改訂され、例えば②に含まれていた漢字が①の常用漢字になるなどの動きも加わり、現在では、①として2136字、②として863字(計2999字)が定められています。
なお、①と②の漢字それぞれを調べるのは大変ですが、法務省のホームページ(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji86.htm)では、一覧表があり、また、個別の漢字の検索もできるので便利です。
ちなみに、人名用漢字は漢字の表記のみが定められており、その読み方には制限がありません。近年は個性的な子の名前も増えてきましたが、それにはこのことも関係しているのかもしれません。
- ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。