変更適用
法令の「適用」とは、法令の規定をある事柄に対して働かせることですが、当該規定を適用するに当たり何らかの政策的な配慮により当該規定の一部に変更を加える必要が生ずることがあります。このような場合に、当該規定中のある字句を他の字句に置き換えることで当該規定を変更して適用することを「変更適用」といいます。
会社法(平成17年法律第86号)第130条を見てみましょう。
(株式の譲渡の対抗要件)
第百三十条 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。
2 株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする。
会社法は、株式会社について株券を発行しない形態を原則としており、第130条第1項は、そのような会社の株式が譲渡された場合について、株主名簿の名義書換を株式会社及び第三者との関係における対抗要件としています。
一方、会社法は、株式会社は定款で株券を発行する旨を定めることができるとし(会社法第214条)、これを定めた株式会社を株券発行会社としています(同法第117条第7項)。
株券発行会社における株式の譲渡の第三者との関係での対抗要件は株券の交付となる(民法第178条)ところ、株式の譲渡の対抗要件についての上記第130条第1項をそのまま適用すると不都合が生じます。そこで、同条第2項が意味を持ちます。この規定にしたがって同条第1項を読み替えると、
「株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社に対抗することができない。」
となります。これにより、株券発行会社の株式の譲渡においては、株主名簿の名義書換は株式会社との関係においてのみ対抗要件とされるのです。
上記の例は割と単純なものであり、多くの条文を変更適用する場合には、表を用いることもあります。
このように、法令の変更適用の手法を用いると、あらゆる場合について改めて文章で表現することなく、法律全体をコンパクトにまとめることが可能となりますが、他方、多用しすぎると、条文を読む側にとっては複雑で分かりにくいものとなってしまいます。
時代の進展に伴い、法律の内容も高度化・専門化しています。そのような中で、条文の起案に携わる者としては、できる限り簡潔で、分かりやすい条文づくりに努めたいものです。
- ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。