法律の中での"大人"は何歳?
我が国の法律では、"大人"かどうかを適用基準とする場面が多くあります。その一つとして、よく目にするのが「成年」でしょう。
民法では、成年者に対し独立・完全な行為能力を与えており、成年になると、親の同意を得ないで各種の契約を締結できるようになります。また、親の同意なく、婚姻ができるようにもなります。一方、「未成年者」には、様々な制限が規定されています。
従来、この成年年齢は20歳とされていました(民法第4条)。"20歳"の根拠については、民法制定当時、明治9年太政官布告第41号において課税や兵役の基準年齢(丁年)を満20歳としていたことに従ったと考えられていますが、当時の我が国の慣習では15歳程度を成年としていたため、当時21歳から25歳程度を成年年齢としていた欧米の経済取引秩序とのバランスを取るために20歳としたといった考え方もあるようです。
この民法の成年年齢が、民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)により、18歳に引き下げられることになりました(令和4年4月1日施行)。
民法の成年年齢の引下げについては、平成12年頃から野党が民法の成年年齢や公職選挙法の選挙権年齢等を18歳に引き下げるための法案を衆参両院に提出するなどの動きがありましたが、初めて成立法律の形で引下げの方向性が明記されたのが、平成19年に制定された日本国憲法の改正手続に関する法律です。すなわち、同法では、国民投票の投票権年齢を本則上18歳と定めた上で、附則で、公職選挙法の選挙権年齢や民法の成年年齢の引下げの検討について規定しました。この検討条項等を受けて、平成27年の公職選挙法改正により選挙権年齢が18歳に引き下げられ(平成28年の参院選から適用)、その後、平成30年の民法改正により成年年齢の引下げが実現するに至ったのです。
民法の成年年齢が引き下げられた結果、令和4年4月から、18歳・19歳の者も、単独で有効な契約をすることが可能となるとともに、父母の親権に服さなくなります。また、民法以外の法律や制度にも様々な影響があります。例えば、10年間有効なパスポートの取得や、公認会計士や司法書士などの国家資格を取ることは、これらの根拠法が民法の成年年齢に合わせて年齢要件を定めているため、令和4年4月以降は、18歳から可能となります。
一方、20歳という年齢要件が維持されているものもあります。同じ民法でも、養子をとることができる年齢については、養親になることは他人の子を法律上自己の子として育てるという重い責任を伴うものであることが考慮され、引き続き20歳以上とされています。また、民法以外でも、例えば、飲酒・喫煙や勝馬投票券(いわゆる馬券)等の購入、カジノ施設への入場・滞在については、健康被害の防止や青少年の保護、ギャンブル依存症対策といった観点から、20歳の年齢制限が維持されています。
このように、時代とともに、法律中の"大人"の年齢も変わり得るものですが、見直しに当たっては、それぞれの法律の目的や規定の趣旨に照らして考えることが必要となります。
民法の成年年齢の引下げ及びこれに伴う関係法律の整備が実現した今、残された大きな課題は、少年法の適用年齢の引下げの是非です。20歳を基準として「成人」と「少年」を区別している同法については、現在、法務省の審議会において議論が続けられており、その行く末が注目されます。
ちなみに、皆さんが"大人"になったと実感するイベントであろう成人式については、法律ではなく、各自治体の判断で開催されていますが、「成人の日」(又はその前後)に実施するケースが多いようです。国民の祝日に関する法律では、「成人の日」を「おとなになつたことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」日としていますが、「成人」「おとな」が何歳かを具体的に定めておらず、民法の成年年齢と当然に一致する必要はないとされています。18歳の高校生はこの時期大学受験を控えている場合も多い中、令和4年4月以降、18歳・19歳の人がどのように成人式に参加するようになるのか、気になるところです。
- ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。