こんなところに大事なことが!―例外事項はどこにある?―
実務書などを読んでいると、様々な法制度について実際に利用する場合の手続がコンパクトに記載されています。非常に便利です。
しかし、果たしてそれが法令のどこに根拠を持つものなのかをたどってみると、時には思わぬところに規定があることがあります。
法令の本体に規定されている事項の例外を定めるものには、附則の規定、特別措置を定める法律などがあります。
ある法律が制定される場合に経過措置規定が膨大となるときは、「施行法」が制定されることがありますが、その中に変わった特例が定められていることがあります。
その一例が、いくつかの法律についての国外犯処罰規定です。普通、法律の罰則を国外犯に適用するには、「刑法第二条の例に従う」というような国外犯処罰規定を援用する旨を刑罰を定めている法律それ自体に置くのが通常です。
国外犯処罰の根拠は「刑法施行法」第26条の「左ニ記載シタル罪ハ刑法第二条ノ例ニ従フ」に基づきます。「左ニ記載シタル罪」の中に船舶職員及び小型船舶操縦者法に掲げた罪が規定されています。
このような規定の形式になっているのは、沿革をたどると複雑なのですが、元来は明治19年 制定の船舶職員法を対象にした刑法施行法の規定が、昭和26年制定の船舶職員法(現「船舶職員及び小型船舶操縦者法」) に適用されていたという事情から生じたものです。
次に、平成17年改正前の商法には「登記シタル事項ハ登記所ニ於テ遅滞ナク公告スルコトヲ要ス」(第11条第1項)とありましたが、公告は不要とされていました。「法務局及び地方法務局設置に伴う関係法律の整理等に関する法律(昭和24年法律第137号)」の附則第9項というところに「登記所がすべき公告は、当分の間官報でするものとする。但し、登記事項の公告は、当分の間しない」と規定されていたためです。(なお、同法は、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第87号)により廃止され、会社法の下では、登記事項について公告を要するとする規定はありません。)
さらにもっと複雑なものがあります
それは、裁判所の公告です。例えば、破産宣告がされると公告されます。破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)には、公告は官報及び新聞紙ですることと規定されていました。「及び」ですので、官報と新聞紙の双方にしなければならないということになりますが、官報のみにするだけでかまわないこととされていました。
まず、戦時民事特別法(昭和17年法律第63号)という法律に、「裁判所ガ官報及新聞紙ヲ以テ為スベキ公告ハ官報ノミヲ以テ之ヲ為ス」という規定が置かれていました(第3条)。しかし、この法律は終戦後廃止されています。
「何だ、それではこれは根拠にならないじゃないか」と思われるかもしれませんが、廃止された際にからくりがあります。
戦時民事特別法廃止法律(昭和20年法律第46号)附則第2項に「旧法(廃止された戦時民事特別法)第三条・・ノ規定ハ本法施行後ト雖モ当分ノ内仍其ノ効力ヲ有ス」とあるのです。そのため、新聞紙による公告を要しないとする規定は生き続けていたというわけです。
- ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。