法令用語と法解釈
法令は、国民の権利義務について規定するものであるだけに、誤解などが生じないよう、立法者の意図した内容が正確かつ厳密に表現されなければなりません。
法令の正確性・厳密性を確保する上で重要な役割を果たしうるのが「法令用語」です。法令用語の中には、日常用語とは異なる使い分けや特別の意味があるものとして用いられる用語や慣用句もあり、「及び」「並びに」「又は」「若しくは」「みなす」「推定する」などいろいろなものがあります。
例えば、法令では、「してはならない」/「することができない」との表現が用いられることがありますが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
これらは、日常用語としては同じような意味合いを持つものとして明確な区別なく用いられることがありますが、法令用語として用いられる場合には、両者は明確に区別されます。「してはならない」とは、禁止を意味し、ある事柄について不作為の義務を命ずる場合に用いられます。この規定に違反した場合には、それが処罰の原因となることはあるとしても、法律上の権利・能力に関する規定ではないため、その行為の法律行為としての効力に影響が生ずることはありません。一方、「することができない」とは、法律上の能力・権利がないことを表現する場合に用いられます。したがって、この規定に違反した場合には、処罰の原因とされることは少ないとしても、その行為には法律上の行為として瑕疵があるとされ、法律行為としての効力に影響が生じうるのです。
このように、法令用語は、その意味を捉える上で重要な役割を果たしていることから、法令を立案したり、それを読んだりする場合において、基礎的な知識として必要とされます。
法令においては、正確性・厳密性が確保されなければならないのは上述のとおりですが、一方で、法令の規定には、抽象的な面があり、その内容を理解したり具体的な事案に適用したりする場合に「解釈」が必要になることがあります。
例えば、刑法第235条は、「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」と規定しています。ここにいう「財物」の解釈について、有体物のみをいうのか、具体的には電気は「財物」に含まれるのか古くから議論されていました。この点については、判例の蓄積も踏まえ、同法第245条において「この章の罪については、電気は、財物とみなす。」と規定され、窃盗や強盗の客体となる「財物」には電気も含まれることが条文上明らかにされ、立法的な解決が図られました。もっとも、「電気」以外のエネルギー(熱力、水力等)についてどのように考えるべきかについては、「財物」についての考え方によって解釈が分かれ得るところです。
法令用語も法解釈も、法令の正確な立案や間違いのない適用ということを確保する上で必要な言葉の技術といえるでしょう。
- ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。