罰金の額
罰金は、現在、刑罰の中でも大変大きな地位を占めており、非常に多くの法律に規定されています。罰金刑は、社会構造の変化に伴い、各種の行政取締法規の刑罰や経済秩序の維持のための刑罰として、ますますその適用範囲が拡大される傾向にあるともいわれています。
ところで、罰金刑は、一定の金額の財産を剥奪することを内容とするものですから、インフレーションや国民の所得水準の上昇があれば、その重みが低下して刑罰としての機能を果たせなくなるということになりかねません。例えば、鉄道営業法第24条には上限を30円とする罰金が規定されていますが、現在これをそのまま適用すれば、いまどき30円の罰金に何の意味があるのかということになってしまいます。そこで、罰金等臨時措置法で、経済事情の変動に伴う罰金の額等に関する特例が定められており、現在では、この鉄道営業法第24条の罰金も2万円以下の罰金として適用されています。
罰金の額の改定に関しては、現在の内閣提出の法律案においては、法律改正の際に、改正や新設の対象とされる条項以外の罰則についても、その時点の経済事情に適合した額となるように罰金の額を改定することとされています。また、刑法や罰金等臨時措置法等については、罰金の額を経済事情に適合させるための法律改正が独自に行われていますし、個別の行政法規についても、実際の罰金の適用状況等から、その額では犯罪に対する罰則としての抑止力に問題があるというような状況になると、罰金の額の改定そのものを目的とした法律改正が行われるようです。しかし、特段こうした問題が生ずることがなく、また、他に法律改正の機会もないままに長い年月が経過してしまった法律には、今となっては非常に少額の罰金が規定されたままになっていることもあるわけです。
一方、高額の罰金の例をみると、貸金業法、銃砲刀剣類所持等取締法、排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律等において、上限を3,000万円とする罰金が規定されています。さらには、外国為替及び外国貿易法のように、違反行為の目的物の価格の5倍が3,000万円を超える場合、罰金は、当該価格の5倍以下とする法律もあります。これらの高額の罰金のほとんどは、平成の時代に入ってから、その上限が引き上げられ、あるいは法律自体が新たに制定されたものです。
今いくつか挙げた高額の罰金の例は個人に適用されるもののうちでの例ですが、さらに、近年においては、法人に対してのみ適用される、上限を億円単位とする罰金がみられるようになってきました。法人に対するこうした高額の罰金は、平成3年の証券・金融不祥事を契機に、それまで、法人の代表者や従業者が法律に違反して罰せられる場合にその法人にも罰金刑を科すときの罰金の額の上限は、その代表者等個人の罰金の額の上限と連動させられていたところを、両者を切り離し、法人に対してより重い罰金刑を科すようになってきたことによるものです。例えば、不正競争防止法では10億円、個人に適用される罰金でもご紹介した外国為替及び外国貿易法においては、違反行為の目的物の価格の5倍が10億円を超える場合、罰金は、当該価格の5倍以下というような具合です。
罰金の額の適時・適切な改定は重要なことなのですが、こうした高額の罰金をもってしなければ法律も守られないような世の中になってきたのかと思うと、何やら憂欝な気分になってきます。
- ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。