参議院法制局 Legislative Bureau House of Councillors

委任立法―国民の目に見える立法を―

  ある事項を法律で定めるか下位法令に委任するか、委任するとしてどのように委任するかということについては、明確なルールはあるのでしょうか。国会を国の唯一の立法機関としている憲法の趣旨からは、包括的な白紙委任は許されないのはもちろんですが、さらに、委任の対象の限定性と基準の明確性が要求されるとする論も見られます。しかし、どの程度要求されるかは、一律に決められるわけではないということも言われています。

 まず、現代国家において委任立法が不可欠である理由が、専門的・技術的な事項に関する能力や社会経済の変化に対する迅速な対応という面で議会に限界があることとされていることからすれば、これらの要素がどの程度強い事項であるかによって、委任のしかたにも違いがあってよいと言えそうです。

 また、委任しようとする事項が給付や規制の対象者や内容など国民の権利義務に直接かかわる事項である場合には、委任の基準の明確性がより強く求められるといえるでしょう。これは、常に明文で基準を書かなければならないということではありません。委任規定の趣旨やその法律全体の趣旨・目的からおのずと委任の限界が明らかになるような場合もあるでしょう。基準を明文化する場合には、典型的なものを例示したり、委任の趣旨をある程度示す(「Aに準ずる者として政令で定める者」「...することに合理的な理由がある者として○○省令で定める者」等)などの方法があります。

 しかし、委任の基準を示してもなお、それを具体化する段階で行政裁量の余地は残ります。銃砲刀剣類所持等取締法で例外的に所持を認められている「美術品として価値のある刀剣類」について、法の委任を受けて制定された銃砲刀剣類登録規則が日本刀のみを対象とした鑑定基準を定めているため、サーベルについての申請が拒否されたという事件で、平成2年の最高裁の判決はこの基準は法の委任の趣旨を逸脱したものとは言えないと判断しましたが、反対意見も付されています。

 また、児童扶養手当の支給対象について、児童扶養手当法は、父母が婚姻を解消した児童、父が死亡した児童等の列挙の最後にこれらに「準ずる状態にある児童で政令で定めるもの」とし、これを受けて平成10年改正前の施行令では「母が婚姻によらないで懐胎した児童(父から認知された児童を除く。)」と規定されていました(このかっこ書きについては、認知を受ければ養育費の負担がなされて給付の必要がなくなるという説明がされていたようです。)。これについて、父親から認知を受けた子供が児童扶養手当の支給を打ち切られたというケースにおいて委任立法の限界が争点となり、最高裁は、法は、世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童を支給対象とする趣旨であると解されるところ、父から認知されればそういった期待をすることができるともいえない、したがって、施行令のこのかっこ書きは、法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効であるとしました(最高裁平成14年2月22日判決)。

 政省令の立法過程の情報公開・国民の関与等も主張されていますが、他方で、専門的能力よりもむしろ政策判断を要求される事項に関しては、法律で書くということにもっとこだわる必要があるのかもしれません。

  • ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。