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著作権の対象―国会議事堂は著作物か―

  「著作権」という言葉からは、小説などの文学作品や美術作品を連想します。しかし、著作権法では、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」とされており、そのほかにもいろいろなものが著作権の対象となります。例えば、著作権法には、著作物の例として「建築の著作物」が掲げられています。これは、設計図はそれ自体著作物となり得ますが、建築物そのものも著作物となり得るという意味です。それでは、国会議事堂も著作物といえるでしょうか。著作権法では、建築物なら何でも「建築の著作物」となるとは解されていません。先ほどの定義にあったように、建築物が著作物といえるためには、創作的でなければならないとされています。絵画の場合には子供の描いた絵であっても創作性があるといえますが、何の変哲もない四角いビルや普通の住宅といった建築物の場合には、そこに建築した者の創作性が表れておらず、著作物ではないとされています。したがって、著作物となるのは、城郭、宮殿、博物館などのように、建築芸術といえるようなものに限られます。そうすると、国会議事堂の場合は、我が国の国権の最高機関を象徴する立派で芸術的な建築物ですから、建築の著作物といってよいのではないでしょうか。

 国会議事堂が著作物だとすると、その著作権は誰にあるのでしょうか。著作権は原則として著作者にあります。国会議事堂を建設するにあたっては、意匠設計の懸賞募集が行われ、宮内省技手のある人が1等となったようですが、これは参考にするにとどめられ、結局は大蔵省に設けられた臨時議院建設局の担当職員が基本設計を決定したようです。著作権法では、法人においてその事務に従事する者が職務上作成した場合には、通常、その法人が著作者であると定められています。したがって、国会議事堂の著作権は、国にあるということになりそうです。

 国会議事堂が建築物だとすると、これとそっくりの建築物を建てることは、著作物の複製にあたることになります。また、材質や形状が多少異なるといった程度でも複製になると考えてよいでしょう。では、大きさを小さくした場合はどうでしょうか。社会的な常識の範囲で理解することになりますが、多少の大きさの違いであれば、複製になる場合が多いのではないでしょうか。ただし、みやげもの店で販売しているような、国会議事堂のミニチュアは、建築物ではありませんから、複製とはいえないでしょう。

 そうすると、国会議事堂にそっくりの建物を著作権者に無断で建てることは、著作権の侵害になりそうです。実は、著作権は、永久に保護されるのではなく、一定期間(保護期間)を過ぎると消滅し、万人に共通の文化遺産として誰もが自由にその著作物を利用することができるようになります。国会議事堂は昭和11年11月に完成しており、当時の著作権法に基づく著作権の保護期間は33年間であることから、その翌年から起算して、昭和44年12月31日には著作権は消滅しているということになります。

  • ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。