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法律における外来語―時代に対応し得る法律をめざして―

  アクティブ・ラーニング、ポートフォリオ、デジタルプラットフォーム......日常生活では新しい外来語が次々に登場しますが、法律用語もこのような状況と無関係ではいられません。

 外来語とは、元来は外国語であった言葉が日本語に取り入れられて使用されている言葉を言いますが、その意味・内容が明確で日本語として定着していれば、法文においても使用されます。この考え方は、少し古いものにはなりますが、「外来語を法律の用語として使う場合にどの程度に慣熟すれば使えるかという基準は何か...これは客観的に明確なる基準はちょっと申し上げにくい...。ただ、非常にばく然と申し上げますれば、世上で一般に使って、通常の義務教育を終わった程度の人が聞いてもその意味の大体はわかるという程度のものであると立法者が判断なさった場合にお使いになっているのだろうと思います。」という政府答弁(昭和39年3月4日衆議院科学技術委員会関政府委員答弁)においても示されています。

 外来語であっても、例えば「たばこ」のように、日本語に取り入れられた時期が古く、ほとんど日本語化しているようなものは平仮名で書かれますが(たばこ事業法第2条第1号)、なお外国語に由来するという感じが残っているものは片仮名で書かれます。例えば、「レクリエーション」(国家公務員法第73条第1項第3号)、「ポスター」(公職選挙法第143条第1項第1号)、「デザイン」(所得税法第204条第1項第1号)、「バー」(所得税法第204条第1第項6号)などで、現在では多くがこの表記によっています。

 外来語は戦前の法律でも使われていましたが、そのときには、外国語の音を漢字で表記したり、外国語を漢語調に訳した言葉を使用したりするなどの方法がとられていました。例えば、平成7年の改正前の刑法では、「ガス」は「瓦斯」(第118条)と、「ボイラー」は「汽缶」(第117条第1項)とされていました。改正により「ガス」、「ボイラー」に改められましたが、これによりずっと分かりやすくなったといえるでしょう。

 なお、日本語には、いわゆる和製英語など外国語を組み合わせて日本で独自に作られた言葉がありますが、これらも本来の外来語同様、片仮名書きで用いられています。「老人デイサービスセンター」(老人福祉法第5条の3)、「テレビゲーム機」(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条第1項第8号)などがその例です。

 先に述べたように、法文における外来語の使用基準は、その言葉が日本語として定着していると言えるか否かという点にあります。また、片仮名で書かれた言葉は、漢字と異なり、見ただけでは意味が分かりにくい場合もあるので、立案に当たっては、他に適当な言葉がないかも慎重に検討しなければなりません。しかし、このような判断は必ずしも簡単なものではありません。

 例えば、「コンピュータ」という言葉も、法律での使用例は少なく(文化芸術基本法第9条等)、今なお「電子計算機」(著作権法第10条第3項第3号、刑法第234条の2等)、「電子情報処理組織」(電子情報処理組織による登記事務処理の円滑化のための措置等に関する法律第1条等)といった言葉で表現されていることが多いようです。一方、「プログラム」(著作権法第2条第1項第10号の2等)、「ソフトウェア」(インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律第3条第2項等)、「コンテンツ」(コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律第2条第1項等)といった言葉は法文に登場しています。

 他方、「リベンジポルノ」、「ヘイトスピーチ」などは、新聞報道等を通じて、国民の間でも徐々に浸透してきているとも思われますが、なお法律上の用例はありません。「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(平成26年法律第126号)」、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(平成28年法律第68号)」は、それぞれ「リベンジポルノ防止法」、「ヘイトスピーチ解消法」などと呼ばれることもありますが、これらはあくまでも通称であって、題名にも条文中にも「リベンジポルノ」、「ヘイトスピーチ」という用語は出て来ず、全て片仮名を用いないで表現されています。「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」と「ヘイトスピーチ」のどちらが分かりやすいかは意見の分かれるところかもしれませんが、法律として規定したい内容を正確に表現することも必要な要素だと言えるのではないでしょうか。

 次々に生じる新しい事象に対応するためには、法律も新しい言葉をどんどん取り入れていかなければなりません。分かりやすさと正確さという双方の観点を考慮し、より適切な用語を選択することが求められています。

  • ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。