参議院法制局

法律の現代語化・平易化

 法律といえば、一般には何か難しいものといったイメージがつきまといがちです。特に、戦前に制定された漢文調の片仮名・文語体の法律を御存じの場合は、よりその印象が強いのではないでしょうか。しかしながら、時代とともに、法律における表記は、徐々にではありますが、国民にとって分かりやすいよう改善されてきています。ここでは、法律の表記方法という面に着目して、その改善の歩みを簡単に振り返ってみたいと思います。

 まず、戦前の法令は、片仮名・文語体で、句読点も用いられず、条文の見出しもなく、さらには、項番号も付されておらず、項の行頭を1字下げる習慣もありませんでした。

 昭和21年4月17日に公表された憲法改正草案は、画期的な平仮名・口語体を採用しました。これがターニング・ポイントとなって、以後新たに作成される法令案は、平仮名・口語体が原則となりました。ちなみに、最初の平仮名・口語体表記の法律は、同年7月23日に公布された郵便法の一部を改正する法律(昭和21年法律第3号)だとされています。

 日本国憲法は、項の行頭を1字下げるスタイルを採用した点でも、目新しいものでした。しかし、この段階でも、見出しや、項番号は付されていませんでした。法令集では、日本国憲法の各条文の肩に見出しが付いていることが多いですが、これは、条文の内容を分かりやすくするために出版社などが便宜上付けているものであり、正式なものではありません。そのため、見出しの内容が法令集によって異なっている場合もあり、例えば、第57条であれば「会議の公開と会議録」、「会議の公開、秘密会」、「会議の公開、会議録、表決の記載」というように、それぞれ微妙に異なる見出しが付されています。

 条文の肩に見出しを付した最初の例は、昭和22年制定の労働基準法でした。見出しは当初、条文数が相当多い法律にのみ付されていましたが、これが法文の理解と検索をするのに効果的であることが知られるにつれ、あらゆる法令に普及していきました。

 昭和23年頃からは、第2項以下の各項の冒頭に算用数字による項番号が付されるようになりました。これにより、第何項かを特定するために項を頭から数える手間が省けるようになりました。

 ところで、片仮名・文語体の法律を改正する場合には、法律の全部改正や新たに追加又は全部改正される特定の編・章については平仮名・口語体によるものとされていますが、そうでない場合には元のとおり片仮名・文語体の表記のまま一部改正が行われることになっています。その結果、民法第4編第5編(昭和22年全部改正)や刑事訴訟法(昭和23年全部改正)は、平仮名・口語体に切り替わったものの、全部改正等の機会がなかった民法第1編第2編第3編や、刑法、商法、民事訴訟法などは、その後も長く、片仮名・文語体のまま一部改正が行われることになりました。

 これらの法律が平仮名・口語体とされたのは、平成に入ってからです。平成7年に刑法が、平成8年に民事訴訟法が、平成16年に民法第1編第2編第3編が、平成31年に商法が、それぞれ平仮名・口語体とされました。

 その際、表記を平仮名・口語体にするだけではなく、表現を平易化し、国民に分かりやすくすることも重要な課題となりました。例えば、刑法第256条(盗品譲受け等)については、第1項で「贓物ヲ収受シタル者ハ...ニ処ス」とされていたのが「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は...に処する。」に、第2項で「贓物ノ運搬、寄藏、故買又ハ牙保ヲ為シタル者ハ...ニ処ス」とされていたのが「前項に規定する物を運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け、又はその有償の処分のあっせんをした者は...に処する。」と改正されたように、実質的な内容の変更を伴わないという建前の中で、平易な表現とすることが追求されました。

 法律は、一度作られれば永久にその形のままであるということはなく、社会情勢の変化等に合わせて見直され、必要があれば改正も行われることにより、時代とともに変化していくものであり、その点は内容のみならず形式についても同様です。国民にとっての分かりやすさを更に追求するため、法律の"平易化"という視点は、引き続き求められることになるでしょう。

※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。