参議院法制局 Legislative Bureau House of Councillors

①管理職職員からのメッセージ

未来の法制度をデザインしてみないか  <平成4年入局 部長級職員>

私たちのミッション

 時代の進展等に伴い、既存の法制度では、解決できなかったり、そもそも想定されていなかった問題が生じてくる場合があります。
 こうした問題に対処するために、参議院議員が、既存の法律を改正したり、あるいは新たな法律を作ろうとするのを法制面から補佐するのが参議院法制局の主な仕事です。
 例えば、私が課長時代に携わり、令和2年に成立した「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」は、第三者の卵子又は精子を用いた生殖補助医療により子が出生するという、民法の制定時には想定されていなかった事態に対処するために、新たな議員立法により、親子関係に関する民法の特例等を定めたものです。

議員立法を通じて世の中に貢献する

 時代の先端を行くようなテーマや国民の関心の高い問題などについて、依頼に応じ法制的な観点から解決のための知恵を出していくという点が、参議院法制局の魅力や仕事のやりがいの一つであると思います。ときには、部内の法律論議が学説や判例などでも論じられていない未知の地平に至ることも多く、そこから先は、自分たちだけで考え、議論を重ねて法論理を構築していくしかないのですが、そのようなときには、いまだ誰も論じていないような法律学の最先端の議論を展開していること自体に仕事の醍醐味を感じることができます。
 また、そうした過程を経てようやく出来上がった法律案の内容を見て、依頼議員や関係者の皆様が大変喜ばれ、感謝してくださるのも、仕事冥利に尽きるというものです。さらに、当該法律案が無事に成立して、六法全書に載っているのを確認したときなどには、世の中の役に立っているという実感を強く持つことができるでしょう。
 ときには、議員の想いにどうすれば応えられるのか、思い悩むこともあります。私が課長補佐級時代に関わった「自殺対策基本法案」もそうでした。「いのちを守りたい」という依頼議員のお気持ちは痛いほど理解できるのですが、では自殺対策として果たして法律に何を規定できるのか、法律を作ったからといって実際に自殺者数を減らすことができるのかなど、当初は迷いの連続でした。
 しかし、法成立から10 年以上が経過し、法制定時には3万人を超えていた年間自殺者数が1万人以上も減少しているとの報道に触れたとき、ようやく依頼議員の想いに多少なりとも応えることができたのではないかと実感することができました。
 また、同じく私が課長補佐級時代に担当した「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」も、施行から15年以上が経過しましたが、同法に基づき性別変更が認められた件数は年々増加し、令和2年末までにとうとう累計が1万件を超えたとの報道に接したときも、大変感慨深いものがありました。このように自分が関わり成立した法律の成果をいつまでも実感し続けられることも、次の仕事へのモチベーションにつながります。

当局を志望する皆さんへ

 参議院法制局の仕事は、時代の最先端のテーマ等に対して法律学の最先端の論理を駆使して立法的な解決を図ることにより、国民全体に奉仕するとともに、議会制民主主義の発展に貢献するものです。法律学を学んできた皆さんなら、誰もがやりがいを感じることは間違いないでしょう。
 こうした仕事をこなすために求められる能力としては、まずは、立法の専門家たるべく、法律学の基礎知識をきちんと修得していることが大前提となりますが、その上で、そうした基礎知識を生かして法的な議論を論理的に展開させることができる応用力も求められることになります。また、当局では、定期的な人事異動を通じて、様々な分野の立法に関わることとなりますので、法的知識の修得にとどまらず、日頃から、様々な分野の出来事に対して興味関心を持ち、広い見識や柔軟な発想力を併せ持つことも大切です。さらに、当局の仕事は依頼があって始まるものですから、依頼者側の意向をきちんとくみ取って理解する能力や法律的な議論を分かりやすく丁寧に伝える能力も求められます。
 参議院法制局の採用に当たっては、そうした素養を持つ人材であるかどうかを重視しております。もちろん、学生時代からその全てを備えたパーフェクトな人間はいません。
 採用後にそうした能力を向上させていけるだけの資質があるかどうかを見ているわけですので、心配することなく、自信を持って当局を受験してみてください。意欲と能力のある皆様と一緒に働ける日を楽しみにしております。

研鑽を重ね、より良い法案をつくる。 ~キャリアパスの紹介~  <平成15年入局 課長級職員>

〔係員級・係長級〕 仕事を通して法的思考・技術を習得する

 入局して2日目、いきなり法案の部長審査に参加することになりました。そこで飛び交う専門用語、半端ではない条文表現へのこだわりに面食らってしまったというのが、私の職業生活のスタートでした。
 しかしそう思うのも束の間、少数精鋭の当局では若手にも重要な仕事が次々と割り振られます。入局1~2年目で担当したDV防止法改正法(平成16年)では、DV被害者保護のための保護命令の要件や手続をいかに遺漏なく精緻に制度設計するか、自分なりに考え、日々上司や先輩方と議論しました。
 入局4年目(平成18年)には、ドミニカ移住者特別一時金支給法の立案を担当しました。戦後、十分な事前調査が行われないまま政府により推進されたドミニカ共和国への移住について、おわびの意を示す内閣総理大臣の談話を受けての立案であり、また、私が条文の下案を作成することになり、大変な思いもしましたが、無事成立した際には、移住者の長年のご労苦に報いるお手伝いができたと感慨深く思いました。
 平成22年には、人事院に出向しました。国家公務員の期末・勤勉手当の担当課に配属され、民間企業の給与調査や支給月数の試算、各所からの問合せ対応など、全く経験のないことばかりでしたが、霞が関の仕事の進め方などを知ることができ、大変有意義でした。

〔課長補佐級〕 課の中核として尽力する

 鳥獣被害防止特措法改正法(平成24年)は改正項目が多岐にわたるものであり、農林水産省や環境省、総務省などとの調整・交渉も担当しました。また、鳥獣による農作物被害を防止する必要性がある一方で、猟銃捕獲が拡大することへの懸念も示され、与野党議員による協議を見守りつつ、条文の文言について警察庁と厳しいやり取りをしました。
 皆さんは、さい帯血バンクをご存じですか?へその緒から採取されるさい帯血は血液疾患の治療に非常に有用であり、これを公私の団体が保管しているのですが、一部の団体において不適切な事例があり、これに対処するための造血幹細胞提供推進法改正法を立案し、成立しました(平成30年)。貴重なさい帯血が無駄にならないよう迅速な対応が求められた案件であり、依頼議員や厚生労働省と緊密に連携をとりながら、作業を進めました。
 課長補佐級として最後に担当したのが、国会議員歳費法改正法(令和元年)です。成立した案は、参議院の経費節減のため参議院議員の歳費の一部を自主返納できるようにするものでしたが、様々な会派がそれぞれ異なる内容の法案を提出しました(計3本)。国会議員の身分という憲法上の論点もあり相当慎重な検討が求められましたし、同時並行で各会派の案を作成するという頭の素早い切替えも必要となりました。また、長時間の法案審議への対応(答弁作成など)もあり、非常に緊張感の高い仕事となりました。
 このほか、首都直下地震対策特措法の原案や受動喫煙防止対策の野党案、参議院関係の会議録などのペーパーレス化のための規則改正などを担当しました。

〔課長〕 同僚を信頼し、円滑に仕事を進める

 課長となってすぐに鯨類科学調査実施法改正法(令和元年)を、また令和4年に障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法を担当し、成立に至りました。前者は、日本が古くからクジラを利用してきた文化を大切にしたいという与野党議員の熱意を感じながら、後者は、自分が持つ障害にフィットするコミュニケーションや情報アクセスの手段を確保したいという多くの障害者の方々の要望を議員とともに聴きながら、立案を進めました。
 課長は、議員や関係者との協議や、政党の会議での発言を行うなど、対外的な仕事を多く担当します。法案内容などの検討は引き続き自身でもしますが、課員に積極的な提案を促し、アイデアをまとめてもらうようにもしています。
 私たちの仕事は、一人ではなくチームでするものです。またその進め方は、コロナ禍も経て多様性が求められています。課長として、同僚を信頼し、その能力と個性を活かし、集中力の高い作業と柔軟な対応とのバランスの取れた業務運営を心掛けるようにしています。
 これまでの仕事の一端をご紹介しましたが、担当する分野の広さとそれぞれの役割での仕事ぶりを知っていただけたらうれしいです。
 長文となりましたが、最後に。世界的音楽家の坂本龍一さんは、生前"芸術は長く、人生は短し"という言葉を好んでおられたそうです。法律は芸術作品ではありませんが、議員とともに深く検討してつくり上げた法律はきっと長く役立つことでしょうし、そのような法案をつくることができるよう、若手もベテランも職業生活の全体を通じて、立案の技術や政策の理解力、対話力などの研鑽を重ねていくことが必要なのだと思います。近い将来、皆さんとこの思いを共有しながら仕事ができることを楽しみにしています。