法制執務コラム

「禁()」の表記

 「言葉は世につれ」などといいますが、法的安定性が要請される法令に使用される用語も時代によって変化します。その例として、今回は、刑法(明治40年法律第45号)に定める刑の一つである禁錮の表記を取り上げます(禁錮は、刑事施設に拘置するという刑で、懲役と異なり刑として作業を行うことはありません。)。

 まず、昭和22年ごろまでに制定された法律では、禁錮は、そのまま「禁錮」と表記されていました(例えば、検察庁法(昭和22年法律第61号)第20条第1号、会計検査院法(昭和22年法律第73号)第7条等)。次に、「錮」の字が当用漢字表(昭和21年内閣告示第32号)及び当用漢字音訓表(昭和23年内閣告示第2号)に含まれず、表外漢字とされたことを受けて、昭和23年から昭和29年ごろまでの間は、禁錮の「錮」を平仮名書きにして、そこに傍点を付す「禁こ、」(法律の原文は縦書きなので、「こ」の字の右横に点)という表記が使われました。その間に制定された法律で現在まで「禁こ、」の表記が残っているものとしては、電波法(昭和25年法律第131号)第107条、破壊活動防止法(昭和27年法律第240号)第38条第2項等があります。

 その後、昭和29年11月の「法令用語改正要領」第四(D)により、専門用語等であって、他に言い換える言葉がなく、しかも平仮名で書くと理解することができないと認められるようなものについては、その漢字をそのまま用いて、これに振り仮名を付ける取扱いとされ、その例として「禁()」が上げられました。この要領に従い、おおむね昭和30年以降、「禁()」という表記が用いられています。ただし、禁錮が2回以上出現する法律には、条文上禁錮に言及するごとに振り仮名を付けるもの(例えば、武力紛争の際の文化財の保護に関する法律(平成19年法律第32号))と初出の禁錮にのみ振り仮名を付け、その後に出てくる禁錮には振り仮名を付けないもの(例えば、更生保護法(平成19年法律第88号))があります。また、法律の制定時と改正時の用語の表記の基準の違いを反映して、自衛隊法(昭和29年法律第165号)のように、「禁こ、」と「禁()」の両表記が混在するということもあります。ちなみに、過去、幾つかの法律で傍点なしの「禁こ」という表記が使用されたことがありましたが、その表記は、今では「禁()」に改められています。

 表記の違いにかかわらず、以上のいずれもが、刑法に定める刑としての禁錮を指し示しているということは明らかでしょう。なお、漢字変換の候補として表示されることがある「禁固」という表記は、昭和49年に法制審議会が答申した改正刑法草案で用いられましたが、法律上の使用例はありません。

(齋藤陽夫/「立法と調査」NO.286・2008年9月)


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