法制執務コラム

法格言

 法律の世界においては、古くはローマ法の時代から多くの法格言が伝えられています。そこで、それらの中から基本的かつ我が国の現行法とのかかわりが深いものをいくつかご紹介したいと思います。

【法律がなければ犯罪(刑罰)なし[19世紀ドイツ]】

 いわゆる罪刑法定主義の考え方を示したもので、自由主義・民主主義の要請によるものです。憲法第31条(「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」)や第39条前段(「何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。」)などにその思想が具体化されています。

【過失なければ責任なし[古代ローマ]】

 いわゆる過失責任の原則を示したもので、私的自治の原則、所有権絶対の原則と並ぶ民法の基本原則の一つです。現行法では過失(注意を欠いて結果の発生を予見しないこと)がなければ不法行為による損害賠償責任を負わないとし(民法第709条)、過失責任を原則としていますが、被害者救済の要請から、製造物責任法などのように例外的に無過失責任が制度化されている場合もあります。

【権利の上に眠るものは保護に値せず[起源不明]】

 この法格言の考え方は、民法第166条以下の消滅時効制度(一定期間の経過により権利が消滅してしまう制度)などに具体化されています。例えば、飲み屋のツケは、おかみさんが請求しない限り1年間で消滅することになります。

【法は家庭に入らず[古代ローマ]】

 この法格言は、家庭内の問題については法が関与せず自治的解決にゆだねるべきであるとの考え方を示すものです。民法の協議離婚制度(当事者の合意があれば、裁判所の関与なく、届出のみで離婚できる制度)や刑法の親族間の特例(窃盗、詐欺、横領などで夫婦や一定の親族には刑が免除)などに具体化されています。なお、家庭内における虐待や暴力について、近年、いわゆる児童虐待防止法やDV防止法が制定されるなど、この法格言を超えて積極的に法が関与する例も見られます。

【よい法律家は悪い隣人[古くから万国で?]】

 この法格言は法律家は理屈っぽくって頭が固いというイメージによるものですが、より根本的には法律の世界自体の親しみにくさを示したものといえるでしょう。裁判員制度の開始も近づいており、今後、広く一般の方に法律の世界に親しんでいただくことがますます重要になると思われます。本稿が、その一助となれば幸いです。

(永野豊太郎/「立法と調査」NO.255・2006年5月)


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