法制執務コラム

題名のない法律

 法律には、題名を付けることとされています。法律を掲載した官報を見ると、「○○法をここに公布する。」という公布文、御名、御璽、日付、内閣総理大臣名及び「法律第△号」という記載があり、その次に「○○法」という記載があります。これが法律の題名です。

 もっとも、昭和22年ごろまでは、既存の法律の一部を改正する法律、一時的な問題を処理するために制定される法律、内容の比較的重要でない法律などについては、題名が付けられないことも少なくありませんでした。当時制定された題名のない法律のいくつかは、現存しています。例えば、現存する昭和22年法律第82号を官報で見ると、「朕は、帝國議会の協賛を経た國会予備金に関する法律を裁可し、ここにこれを公布せしめる。」という公布文、御名、御璽、大臣名及び「法律第八十二号」という記載の次が「第一條 各議院の予備金は...」となっており、題名が付されていません。

 このような題名のない法律の呼び名はどうなるのでしょうか。法律には「平成×年法律第△号」といった法律番号が付されているため、この法律番号で呼べばよいようにも思われますが、これだけではそれがどのような内容の法律であるかよく分かりません。そこで、法律の公布文に引用されている字句がその法律の名称として用いられており、この名称のことを件名といいます。先の昭和22年法律第82号でいえば、件名は「国会予備金に関する法律」となります。題名がなく、「朕決鬪罪ニ關スル件ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム」という公布文がある明治22年法律第34号については、件名は「決闘罪ニ関スル件」となります。

 もっとも、この件名は、便宜的な呼び名であるため、法律の一部である題名とは異なった扱いがなされることがあります。

 片仮名書き・文語体の題名を他の法律で引用する場合、その法律の地の文が平仮名書き・口語体であっても、片仮名書き・文語体で引用すべきこととされています。これに対し、公布文が片仮名書き・文語体である法律の件名を他の法律で引用する場合には、その法律の地の文が平仮名書き・口語体であれば、平仮名書き・口語体で引用してもよいこととされています。例えば、中央省庁等改革関係法施行法(平成11年法律第160号)第1266条は「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(大正七年法律第三十二号)の一部を次のように改正する」と規定するのに対し、同法第348条は「国債の価額計算に関する法律(昭和七年法律第十六号)の一部を次のように改正する」と規定しています。この昭和7年法律第16号には題名がなく、公布文は「朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル國債ノ價額計算ニ關スル法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム」となっています。

 また、題名を改めるには題名自体の改正が必要となるのに対し、件名については、件名自体の改正ということがなく、法律の内容が改正により当初と異なることとなったときは、改正後の内容に即した件名を付けることができることとされています。例えば、題名がなく、「朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル普通銀行等ノ貯蓄銀行業務又ハ信託業務ノ兼營等ニ關スル法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム」という公布文がある昭和18年法律第43号は、平成4年の改正以後は、「金融機関の信託業務の兼営等に関する法律」という件名で引用されています。

(滝川雄一/「立法と調査」NO.226・2001年11月)


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