法制執務コラム

法人企業の処罰

 この夏は、乳業メーカーがずさんな製造管理で大規模な食中毒を発生させたり、自動車メーカーが組織ぐるみでリコール隠しをするなど、大企業の企業倫理が問題となるような事件が相次ぎましたが、こうした法人企業について法令違反などがあった場合、その企業自身の刑事責任はどうなるのでしょうか。

 刑法の総則では、刑を科されるべき者は実際に生きている人間、いわゆる自然人であることが前提とされ、この総則は、特別の規定がない限り、他の法令で刑を定めたものにも適用されます。例えば、ある行政法規に、「第○条の規定による報告を提出せず、又は虚偽の報告をした者は、六月以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」という規定があり、ある法人がこの報告を求められてその代表者又は従業者が法人のために虚偽の報告をした場合、この規定で処罰されるのは、実際の行為者である代表者又は従業者であって、法人ではないということになります。

 しかし、こうしたケースでは、違反行為によって実際に利益を得るのは法人ですから、行為者を処罰するだけでなく、その法人自身を処罰すべきだという考え方が当然に出てきます。このため、特に行政法規の刑罰については、「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して前○条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する」というような形で、ある犯罪が行われた場合に、行為者本人だけでなく、その行為者と一定の関係にある法人をも処罰する旨の規定を置くことが多く、これを「両罰規定」と呼んでいます。なお、右の規定例でも分かるように、両罰規定は、法人のほか、自然人である事業主にも作用します。

 法人に懲役や禁錮などは科しようがありませんから、両罰規定によって法人に科される刑は、罰金のような財産刑に限られます。この場合、法人に科される罰金の額の上限は、かつては例外なく、行為者に科される罰金と同じだったのですが、近年は、別途これを大幅に高く定める例がみられます。これは、行為者の場合と上限が同じでは、巨大化した今日の法人企業には、懲罰として十分に機能しその抑止力を発揮できる罰金を科し得ないという考えから、平成3年の法制審議会刑事法部会の報告を機に導入されてきたもので、例えば証券取引法や金融先物取引法には、法人についてのみ上限を5億円とする罰金があります。

 また、両罰規定の中には、前に掲げた例のような規定の後に、「ただし、法人又は人の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為を防止するため、当該業務に対し相当の注意及び監督が尽くされたことの証明があったときは、その法人又は人については、この限りでない」というただし書のあるものがあります。このただし書がある場合とない場合とを単純に比べると、ただし書がない場合には、従業者の違反行為を防止するために相当の注意及び監督が尽くされたことが証明されても、その法人は処罰を免れないということのようにも思われます。ところが、実は、判例に従えば、両罰規定は、このただし書がなくてもあるのと同様に解すべきことになります。つまり、立法技術的には、現在はこのただし書は付けないことになっているのですが、古い立法例にはまだそれが残っているというわけです。法律の解釈は文言だけでするものではないとはいえ、このような紛らわしい規定は全部整理すればよいのにと筆者などは思ってしまいます。

(奥津伸/「立法と調査」NO.220・2000年11月)


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