法制執務コラム

法律の題名

 皆さんもよくご存知のように法律には題名と呼ばれるものがあります。

 例えば、誰でもよく知っている法律を挙げるとしたら民法や刑法がすぐ思い浮かぶでしょう。民法や刑法は非常に短い題名ですが、これらが私人間の権利関係や親族関係の決まりごとを定め、あるいは犯罪とされる行為とこれを犯した者に対する罰を定めた法律だということはすぐ分かることと思います。このように非常に簡潔でかつ内容をよく表した法律名がよい題名の手本となるわけですが、法律によっては非常に長い題名を持つものがあります。今国会に提出された法案でも題名が「原材料の供給事情及び水産加工品の貿易事情の変化に即応して行われる水産加工業の施設の改良等に必要な資金の貸付けに関する臨時措置に関する法律の一部を改正する法律」というのがあります。もちろん、これは改正の対象にするもとの法律の名前が非常に長いので、これを改正する法律の名前も長くなってしまうのです(なお、この法律で改正される「原材料の供給事情及び水産加工品の貿易事情の変化に即応して行われる水産加工業の施設の改良等に必要な資金の貸付けに関する臨時措置に関する法律」という題名は、法案提出の際にされる閣議で「あまりに長すぎる」と指摘され、もっと簡略な「水産加工業施設改良資金融通臨時措置法」という題名に改正されることになっています)。

 ちなみに現在最も長い名前の法律は、ざっと見た範囲の中で改正法を除けば、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う道路運送法等の特例に関する法律」ということで120文字もあります。

 では、この法律の題名の付け方には何かルールはないのでしょうか。先ほど少し触れましたけれども、大原則としてはやはり「簡潔にして要を得て、中身をよく表すこと」にあると言えるでしょう。

 一方、法律ですから、表現は正確でなくてはなりません。特に法律が対象にしてもいないことを対象とするかのような表現をとることはできませんから、いきおいいろんな言葉が増えてくると思われます。あくまでも私個人の認識ですけれども、割合と中身の条文の分量が少ない法律ほど題名が長くなる傾向にあるのは、中身に書いてある事柄が狭い範囲のことなので、それを特定するための表現が増えてくることが関係しているのではないでしょうか。

 また、法律の性格に応じて、付されることの多い名称もあります。その代表的なものには「基本法」というのがありますが、ある分野について取られる施策について、その理念や基本的な施策の枠組みを定めるものです。また、「特別措置法」、「暫定措置法」、「臨時措置法」、「緊急措置法」などの名称のタイプがあります。「特別措置法」というのは特例的あるいは特別な事態に対処するための措置、「暫定措置法」というのは暫定的な措置、「臨時措置法」というのは恒久的でない臨時の措置、「緊急措置法」というのは緊急事態に対処するための措置を、それぞれ定めるものです。

 このように、法律の題名は、無原則に定められているわけではありませんが、一方で正確性を重視するあまり、長くなりすぎると、さっと見て内容の予想をつけるという題名の役割からすれば、逆効果になり、ひいては国民全体にとって分かりやすい法律という観点からも疑問符のつく場合もあるでしょう。

(宮澤宏幸/「立法と調査」NO.205・1998年5月)


※無断転載を禁ず

戻る


ページの先頭へ