法制執務コラム

立法技術と法解釈

 法律には特別の意味で用いられる慣用語や慣用句がいろいろあります。例えば、「及び」「並びに」「且つ」「又は」「若しくは」「することができない」「してはならない」「みなす」「推定する」等々。これらは立法の内容を正確に表現するための技術で、法律を立案するにあたり知っていなければならない最低限のルールといえます。また、法律の解釈は条文を離れてはあり得ませんし、法律案は条文の一字一句が精査されて出来上がるというのが立案過程の実態ですから、法解釈の仕事に携わる者であれば立法技術についてある程度の知識は当然必要です。

 ところが、立法技術はその地味な性格のために専門家にもよく知られていないのが実状のようで、時には立案の実務の発想ではちょっと考えられないような法解釈がなされることがあります。証券取引法の目的規定(第1条)の解釈に関する議論はその典型と思われます。目的規定は立法意図を明らかにし、法律全体の解釈の指針となる重要な規定です。

 同条は、「この法律は、国民経済の適切な運営及び投資者の保護に資するため、有価証券の発行及び売買その他の取引を公正ならしめ、且つ、有価証券の流通を円滑ならしめることを目的とする。」と規定しています。

 この規定ぶりから見るかぎり、(1)「...に資するため...を目的とする」とあるところから、「国民経済の適切な運営及び投資者の保護」が法の究極の目的で、「有価証券の発行及び売買その他の取引を公正ならしめ、且つ、有価証券の流通を円滑ならしめること」が直接の目的であり、(2)「及び」とあるところから、「国民経済の適切な運営」と「投資者の保護」は単純な並列の関係にあり、(3)「且つ」とあるところから、「有価証券の発行及び売買その他の取引を公正ならしめ」と「有価証券の流通を円滑ならしめ」は並列で密接な関係にあることになります。

 したがって、この規定の解釈では、「国民経済の適切な運営及び投資者の保護」を実現させるために「有価証券の発行及び売買その他の取引を公正ならしめ、且つ、有価証券の流通を円滑ならしめること」が必要とされる理由、さらに、「国民経済の適切な運営」と同時に「投資者の保護」が達成されることになる理由の説明がポイントになります。

 ところが、法律学者の議論はそうではありません。証券法学の通説とされる投資者保護論では、次のように説明されています。

 「「有価証券の発行及び売買その他の取引を公正ならしめ、且つ、有価証券の流通を円滑ならしめる」という具体的な目的を実現させるためには、「国民経済の適切な運営及び投資者の保護」が基本になくてはならないし、また「国民経済の適切な運営」を実現させるには、投資者保護が根底になくてはならないので結局、証取法の究極の目的とは投資者の保護であるということになる。」(河本一郎・大武泰南/証券取引法読本四頁)

 規定ぶり(用語の意味)からちょっと離れる解釈ですが、学者として「投資者の保護」を強調するための目的的な解釈ということなのでしょうか。

(荒井達夫/「立法と調査」NO.204・1998年3月)


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