法律への署名
法律が公布される際の官報をご覧になったことはあるでしょうか。法律の公布は、原則として、「○○法をここに公布する。」との公布文、御名御璽、年月日、内閣総理大臣の副署が記された公布書に続き、法律番号、法律の本文、そして最後に、主任の国務大臣の署名と内閣総理大臣の連署を付すという形式で行われます。今回は、この最後の署名と連署について、見ていきたいと思います。
この主任の国務大臣の署名は、憲法第74条に基づく法律への署名であり、法律の執行について責任の所在を明らかにするものであると解されています。この主任の国務大臣の署名に続いて、内閣総理大臣が最後に連署します。この連署は、内閣総理大臣が内閣の首長として内閣を代表してするものと解されています。内閣総理大臣が主任の国務大臣として署名する場合には、最初に署名し、最後の連署は省略されています。また、内閣総理大臣以外の主任の国務大臣の署名の順序は、いわゆる建制順によることとされています。
例えば、消費者教育の推進に関する法律(平成24年法律第61号)は、内閣総理大臣(消費者庁が置かれている内閣府の主任の大臣として署名)に続き、文部科学大臣が署名しています。この法律においては、消費者教育の推進に当たって、消費者庁がその司令塔となるとともに、学校教育等を担う文部科学省も積極的に施策を講じていくことが求められており、署名からも、法律の執行についての責任の所在が明確に読み取れます。
それでは、法律の署名を見れば、その法律の執行の責任を負う国務大臣がはっきりと分かるかというと、必ずしもそうではありません。
例えば、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(平成25年法律第96号)の公布の際には、内閣総理大臣、法務大臣、財務大臣が署名しています。しかし、この法律は消費者庁のみが所管しているものとされており、それを踏まえると、執行の責任を負う主任の国務大臣は、消費者庁が置かれている内閣府の主任の大臣である内閣総理大臣のみとなるはずです。法務大臣や財務大臣がなぜ署名しているのかというと、この法律の附則において、それぞれの所管する法律の規定の整備がされており、それを受けて署名したものであると考えられます。結局のところ、署名のみからでは、それぞれの大臣がどのような責任を負うのかがはっきりとはしません。
また、参議院法制局の設置根拠である議院法制局法(昭和23年法律第92号)を見ると、公布の際には、内閣総理大臣の署名があります。だからといって、この法律の執行の責任を内閣総理大臣が負っているというわけではなく、公布に当たっての形式的な署名ということになると考えられているようです。
普段使っている法令集では、この署名と連署まで記載されているものは少ないかと思いますが、法律の内容と併せて、どの大臣が署名しているのか、どのような趣旨で署名しているかという点も調べると面白いのではないでしょうか。
- ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。