「協議」が調わなかったら?
法令上、「協議」という言葉がしばしば登場します。「協議」は、「法令上用いられる場合は、協議をする者がお互いに自己の主張するところについて相手方の納得を得るまで十分に説明し、相互の意思を通じ合い、意見を交換した上で一定の事を行うことを前提として用いられることが多い」(角田禮次郎『法令用語辞典』(第10次改訂版)より)とされています。法令においてこの用語が用いられるのは、①行政機関が一定の行為をする場合において、その行為が他の行政機関の権限に関連するときやその行為に利害関係を有する私人があるときに、当該他の行政機関や私人と合議する場合、②審議会などの合議体の機関が一定の事項について合議する場合などの場面ですから、単に相談するというだけではなく、その結果一定の結論を導くことが目指されているといえます。
では、協議相手全員の同意が得られなかったら、どうなるのでしょうか。
①の類型では、同意が得られない以上、その行為をなしえないこととすることが適当な場合があります。この場合、その趣旨を明確にするため、「○○に協議し、その同意を得なければならない」という表現が用いられることがあります(「ダイオキシン類対策特別措置法」第31条第4項等)。逆に、単に「協議しなければならない」とだけ規定されている場合は、協議を尽くしたが相手の納得が得られない場合にはその行為を進めてもやむを得ないと解されるケースが多いと思われます。
一方、②の類型においては、合議体の構成員全員の同意が得られない場合は、協議が調わなかったということになりそうですが、場合によっては、多数決などの手段を用いてでも合議体に何らかの結論を出させ、その結論に基づいて一定の行為を行うこととするケースもあります。
その一つの例として、義務教育で使う教科書の採択手続の改善を図る「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(昭和38年法律第182号)」第13条第5項があります。同条では、従来、共同採択地区内の市町村の教育委員会は、「協議して種目ごとに同一の教科用図書を採択しなければならない」とされていたのを平成26年改正で改め、協議会を作った上で「協議会における協議の結果に基づき、種目ごとに同一の教科用図書を採択しなければならない」旨が明文化されました。協議会の規約には議決方法を定めることが想定されており、協議会の協議においては、あくまで一定の結論を出すことを前提としているように思われます。同じ「協議」という用語が用いられていても、最終的に全員の同意が得られない場合どうすべきとするかは、個々の法令により異なります。前後の規定を注意深く読むとともに、法令の趣旨目的や立法過程における議論を丁寧に拾っていくことが大切です。
- ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。