参議院法制局

法律の停止・廃止・失効

 法律の停止は、廃止とどのような違いがあるのでしょうか。

 法律の停止とは、ある法律の効力を一定期間停止し、その効力が全然働かない状態にしておくことを言います。

 これに対し、法律の廃止とは、ある法律を新たな立法措置により消滅させてしまうことです。当該法律が適用されなくなる点では停止も廃止も共通していますが、停止の場合には当該法律が依然として存在し続けるのに対し、廃止の場合には当該法律の存在自体が無くなってしまいます。

 法律の停止の例として有名なのは「陪審法ノ停止ニ関スル法律」(昭和18年法律第88号)です。これは、旧憲法の下で制定された、刑事事件につき事実の有無を判断する小陪審の制度を定める陪審法(大正12年法律第50号)の施行を停止するもので、この法律によって、我が国の陪審制度は、昭和18年にその施行を停止されて以来、効力が働かない状態のまま現在に至っています。

 また、我が国における厳しい財政状況に鑑み制定された「財政構造改革の推進に関する特別措置法」(平成9年法律第109号)(財革法)ですが、その後の経済状況の悪化を受け、翌年に「財政構造改革の推進に関する特別措置法の停止に関する法律」(平成10年法律第150号)により凍結され、現在に至っているということを記憶されている方もいるかもしれません。このように、停止されている法律も、法律としては存在し、必要があれば改正されます。実際に、財革法は、停止後も過去何度か改正されています。

 停止された法律の効力を復活させるためには、停止に関する法律の中で停止期間の終期が何らかの形で確定的に明示されない限りは、別の立法により措置する必要があります。平成10年の財革法の停止に関する法律の場合にも、「別に法律で定める日までの間、その施行を停止する」という規定になっていますから、復活させることになれば、改めて立法措置が必要となります。

 法律が廃止された例はたくさんあります。例えば、平成25年に成立した「独立行政法人日本万国博覧会記念機構法を廃止する法律」(平成25年法律第19号)では、「独立行政法人日本万国博覧会記念機構法〔...〕は、廃止する」という本則の規定により、独立行政法人日本万国博覧会記念機構法(平成14年法律第125号)は消滅してしまいました。もっとも、附則第3条に「この法律の施行前にした行為〔...〕に対する罰則の適用については、なお従前の例による」という規定が置かれていた関係で、独立行政法人日本万国博覧会記念機構法の罰則規定については、いまだに効力を残しています。

 また、「○○法を廃止する法律」のような題名の法律ではなくても、新規制定法の附則で、別の法律を廃止する規定を置くこともあります。例えば、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(平成31年法律第16号)では、附則第2条で「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」(平成9年法律第52号)を廃止しています。

 ところで、ある法律の附則に、「この法律は、令和3年3月31日までに廃止するものとする」と規定されている場合、この法律は、令和3年3月31日が来たら自動的に消滅してしまうのでしょうか。答えはNOです。この規定は、定められた期限までに当該法律を廃止するための措置が講ぜられるべき旨の立法者意思を示したに過ぎないものであり、本当に廃止するには、改めてそのための立法措置が必要となります。

 これに対し、法律の失効とは、ある法律の効力が、新たな立法措置によることなく自動的に失われることを言います。これは、「この法律は、令和3年3月31日限り、その効力を失う」と規定されている場合、この法律は、期限の到来(令和3年4月1日午前零時)と同時に自動的に効力を失う(失効する)ことになります。

  • ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。