法制執務コラム

法令の題名、件名及び略称

 私事ですが、最近、産まれた子供にどんな名前を付けようかと大変頭を悩まされました。そのときと同じように、法制局職員としてしばしば頭を悩まされるのが、立案している法律の題名です。そこで、今回は、題名を始めとする法令の名称についてまとめてみます。

 まずは、「題名」です。現在、新たに制定される法令の冒頭には必ず題名を付けることになっています。題名には、民法、刑法のように2文字のものから、長いものだと100文字を超えるものまであります。題名を付ける際には、法令の内容を簡潔かつ的確に示す必要がありますが、そのほかには、「○○法の一部を改正する法律」「○○基本法」「○○特別措置法」など一定程度定型化されている部分を除き、明確なルールがありません。このため、法制局職員は、簡潔性と的確性という、ときに相矛盾する2つの要請の下で頭を悩まされています。

 次に、法令の名称としては、「件名」というものもあります。これは、昭和22年ごろまでに制定された古い法令には題名のないものがあるため、便宜的に、その法令の公布文に使われている字句の一部をもって、その法令の名称としたものです。例えば、明治32年法律第40号を官報で見ると、この法律には題名がありません。そのため、「朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル失火ノ責任ニ関スル法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム」という公布文から「失火ノ責任ニ関スル法律」という字句をとって、件名とされています。

 最後に、「略称」です。例えば、NPO法、DV防止法、市場化テスト法などの名称を御存じだと思いますが、これらはすべて法律外で通称として使われている略称です。総務省法令データ提供システム<http://law.e-gov.go.jp/>では、略称でも法令検索ができるようになっており、これらの略称の正式な題名は、ここで御確認下さい。ちなみに同システムに掲載されている略称法令名一覧には、「トラ退治法」という略称が載っています。一見すると、某プロ野球球団に勝利する方法を規定した法律のように見えますが、「酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」(昭和36年法律第103号)というのが正式な題名です。酔っぱらいを俗にトラということから付けられたようで、なかなかユニークな略称です。ただ、1つの法令に複数の略称が付けられることもあり(例:上記の「市場化テスト法」は「公共サービス改革法」という略称で呼ばれることもあります。)、混乱を招くこともあります。そのような混乱を防止するためか、現在、イギリスでは、法律の中に必ず当該法律の略称を定める条項が盛り込まれています。我が国の法律では、イギリスのような条項はなく、法制局職員が立案の際に略称を考える機会は余りありませんが、せめて「題名」の方は、自分の子供の名前と同じくらい大切に考えていきたいと思います。

(永野豊太郎/「立法と調査」NO.309・2010年10月)


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