法制執務コラム

目的規定と趣旨規定

 最近制定される法律には、目的規定又は趣旨規定が第1条として置かれることが一般的です。平成17年~19年の3年間で105本の新規制定法(一部改正法などを除く。)が成立したうち、78本が目的規定を、15本が趣旨規定を置いています。

 目的規定は、その法律の制定目的を簡潔に表現したものです。一方、趣旨規定は、法律の内容を要約したもので、制定の目的よりも、その法律で定める内容そのものの方に重点があるといえるでしょう。これらの規定は、それ自体は具体的な権利や義務を定めるものではありませんが、裁判や行政において、他の規定の解釈運用の指針となります。

 目的規定は、上記のほか、立法を行うに至った動機を述べたり、直接の目的だけでなく究極的に大きな公益に資する旨を明記したりすることで、その法律の必要性や意義を強調する手段となることも少なくないようです。第168回国会で成立した「テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法」(平成20年法律第1号)第1条は、755文字もある非常に大部の条文ですが、骨格だけ示すと、「この法律は、・・・を踏まえ、あわせて、・・・にかんがみ、・・・することにより、・・・に寄与し、もって・・・に資することを目的とする。」となります。「・・・を踏まえ」と「・・・にかんがみ」の部分が立法の動機、「・・・すること」は目的達成の手段(=法律の中心的な内容)、「・・・に寄与」が直接目的、「・・・に資すること」が究極的な目的を述べたものと整理することができます。「かんがみ」までで620字を超え、立法の動機をかなり手厚く述べた規定であることが分かります。

 こうした規定は、新規制定法に置かれることが一般的で、一部改正法などに置かれることは多くはありません。改正法自体は、施行されれば改正対象の法律に「溶け込んで」しまい、後はいわば抜け殻のような状態になるからということでしょうか。しかし、目的規定・趣旨規定を置くかどうかは、最終的には、その法律の内容、性格、制定理由などを総合的に勘案し、その必要性を判断して決定することになります。実際、整備法・施行法(本体の法律の施行に伴う他法改正や経過措置を定める法律)には趣旨規定が置かれることもしばしばですし、わずかですが趣旨規定が置かれた一部改正法もあります。

 消費税率の引上げ等を内容とする「所得税法及び消費税法の一部を改正する法律」(平成6年法律第109号)第1条は、改正の趣旨として「活力ある福祉社会の実現を目指す視点に立ち、社会の構成員が広く負担を分かち合い、かつ、歳出面の諸措置の安定的な維持に資するような所得、消費、資産等の間における均衡がとれた税体系を構築する観点から・・・」と規定しています。増税のように必ずしも人気の高くない内容の法律であっても、その必要性を訴えようとする法案起草者の必死の気持ちが伝わってくるようです。

(坂本光/「立法と調査」NO.282・2008年6月)


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