参議院法制局

地上デジタル放送への移行を定める法律

 平成18年当時は薄型テレビが歳末商戦の目玉となり、家電量販店などでもテレビ売場がにぎわったとのことです。読者の中にも購入された方がいらっしゃるのではないでしょうか。

 さて、薄型テレビへの買換えが盛んに言われていた大きな理由として、地上デジタル放送への移行ということが挙げられるところ、地上デジタル放送への移行は、電波法の一部を改正する法律(平成13年法律第48号)により電波法において定められることとなったと紹介されることがあります。実際には、どのように定められているのでしょうか?

 電波法は、有限な資源とも言うべき電波の割当てのため、総務大臣が周波数割当計画等の計画を定めることとしています。そして、平成13年の電波法改正法は、(1)総務大臣が一定の要件に該当する周波数割当計画等の変更をする場合に、一定の周波数の使用を10年以内に停止することなどを条件として、無線設備の変更の工事をしようとする者に対して必要な援助を行うこと、(2)(1)の援助の業務を他の機関に行わせられること、(3)(1)の業務に電波利用料を使用できることを定めました。

 しかし、このように説明しても"どこに地上デジタル放送への移行が定められているの?"と思われるのではないでしょうか。確かに、当時の改正後の電波法には、「地上デジタル放送に移行する」ということはもちろん、「地上デジタル放送」を表すような言葉すら出てこないのです。

 実は、地上デジタル放送への移行と改正後の電波法との関係を理解するには、ある事実を知っていなければなりません。というのも、法律には書かれていないのですが、行政の側では、上記の(1)の「一定の要件に該当する周波数割当計画等の変更」として、地上デジタル放送への移行を内容とする周波数割当計画等の変更を行うことを予定していました。これを知った上で改めて改正後の電波法を読むと、総務大臣が地上デジタル放送への移行を内容とする周波数割当計画等の変更をしたときには、必要な援助、他の機関による実施及び電波利用料の使用といった措置が講じられることが定められており、実質としては地上デジタル放送への移行について定められていることが分かるのです。

 字面を追っているだけではその法律が何を定めているのかよく分からず、現実の行政の動きを知ってはじめて理解が可能になるというケースは、少なくありません。これまで御紹介した地上デジタル放送への移行と改正後の電波法との関係は、その典型例といってもよいかもしれません。

  • ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。