法制執務コラム

「春分日」の定義

 昨年の第143回国会において、国民の祝日に関する法律(祝日法)の一部改正が行われ、成人の日が1月の第2月曜日に、体育の日が10月の第2月曜日に、それぞれ改められました(平成12年1月1日施行)。この結果、来年(平成12年)は、従来1月15日であった成人の日は1月10日に、10月10日であった体育の日は10月9日になります。

 この改正とは無関係ですが、もう一つ、今年と来年で日付の変わる祝日があります。「春分の日」がそれで、今年3月21日だったものが、来年は3月20日になります。

 祝日法では、「春分の日  春分日」と規定しているだけで、国民の祝日である「春分の日」となる「春分日」の定義は、この法律はもちろん他の法律にもありません。したがって、法律を読んだだけでは、「春分の日」は何月何日なのか全く分かりません。まして、年によって日付が異なることなどは、法律上は知るすべがないのです。(このことは、「秋分の日」についても同様です。)

 祝日法は、衆議院文化委員会が提出し、制定されたものですが、提出に至るまで半年以上にわたって、両院の文化委員会で並行して審議されるとともに、両院文化委員会の合同打合会を4回行うなどして検討されました。検討段階では、春分の日を「3月21日」と確定した日付(秋分の日は9月23日)で規定する案が考えられていました。ところが、昭和23年6月22日の衆議院文化委員会において、「秋分の日は2年おきに9月23日と24日に変り、春分の日は3月21日と22日のいずれかに変更が起こり得る関係上、祝日を3月21日あるいは9月23日と固定することは妥当でないと思います。従って3月21日は22日に9月23日は24日に変り得るように天文学的見地から春分の日、秋分の日を定めた方が妥当と思います。」という意見が出され、原案が確定しました。

 天文学的見地からの春分の日、秋分の日は、大学共同利用機関である国立天文台が毎年5月1日付けで編纂する「暦象年表」に記載されており、より一般的には、これに先立って2月1日付けの官報に資料として掲載される「暦要項」で知ることができます。ちなみに、国立学校設置法施行令第6条に規定する国立天文台の目的の一つに「暦書編製」があり、「暦象年表」はこれに基づいて発行されているものです。

 ところで、法律上「春分日」の定義がされていないと書きましたが、このことについて法制執務の観点からちょっと考えてみます。

 法令の立案に当たっては、意図する立法の内容を正確かつ平易に表現しなければならないとされ、特別な用語を使用する場合には、立法者が意図したことと異なる解釈、運用がなされることがないよう定義を置く必要があるとされています。しかし、法令上の用語すべてに定義を置くとかえって複雑になるので、一般に用いられている用語と異なる意味で用いられるものでなければ、いちいち定義する必要はありません。「春分日」「秋分日」は、太陽暦の採用以前から暦に用いられており、祝日法の前身ともいえる「休日に関する件」(勅令)でも使用され、広く国民に定着している概念なので、特に定義しなくても紛れる余地はないと判断されたものでしょう。

(内藤要/「立法と調査」NO.211・1999年5月)


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