法制執務コラム

重婚罪?

 ある人が妻又は夫以外の異性と結婚をしたとします。このようなことは許されないと、人は考えるでしょう。実際、重婚は禁止されています。

 刑法では、配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは2年以下の懲役が科されることになっています。ただ、この場合「婚姻」とは婚姻届を出して戸籍に記載されたもの、つまり法律上の婚姻をいうと解されています。そうすると、民法では配偶者のある者は重ねて婚姻をすることができないとしているので、できないことを犯罪として罰することにしているという変な話になります。

 では、どうしたら重婚罪になるのでしょうか。刑法の教科書等では、離婚届を偽造して離婚したとき(前の婚姻は、戸籍の記載上は離婚になっていても、法的には有効なものとして残っている)とか、戸籍係が誤って婚姻届を受理したような場合など、ごく例外的にしかこの罪は成立しないと説明しています。資料が古いのですが、昭和51年から60年の間では、年間5件前後が検挙されているに過ぎません。

 なぜ、このような規定があるのでしょうか。妻子ある男性が妻以外の女性と暮らしていても、婚姻届を出して法律上の婚姻になっているのでなければ、このような夫婦関係、家庭生活を破壊する行為が罪にはならない。また、婚姻届を出さなければ何人の異性と結婚生活を営もうとも重婚罪にはならないのです。となると、この規定は何のためにあるのでしょうか。一般に、重婚罪は夫婦関係や家庭を保護することは直接の目的ではなく、それよりも「一夫一婦制」という婚姻についての法制度を保護することが目的であるといわれています。だから、事実上異性とどのような関係を持とうとも、法律上の婚姻を一つだけにしておくならば、刑法の重婚罪に問われることはないのです。

 法制審議会の刑法改正作業でも、この規定は検討課題になっていましたが、昭和49年の『改正刑法草案』ではこの規定を残すこととしています。「重婚の例としては、偽造の離婚届を提出したうえで新たな婚姻をする場合、外国に居住する者が領事への届出によって婚姻をする場合等があること、発生件数が少ないとしても、婚姻制度を乱す行為に対しては適正な規律維持の必要があることから、現行法の行き方を維持することとされた。」(『改正刑法草案説明書』)ということです。刑法学者の間では、重婚罪が成立する場合はほとんどないのであるから無意味であるということのほかに、形式的に婚姻制度を保護するために刑罰を設ける必要性があるのか疑問だという点からも重婚罪の必要性を疑問視する見解が少なくありません。また、事実上の重婚まで罰しようとすれば、刑法が男女の関係という個人の私生活にどこまで立ち入ることが許されるかという問題があるでしょう。

 重婚罪は、「一夫一婦制」という文明社会の倫理を建前において保護しようとしているのに過ぎないのかもしれません。ただ、道義的建前の宣言という面が、明治期の立法である刑法にはあるのでしょうか。重婚罪は、刑法の歴史的一面を残す刑罰規定なのかもしれません。

(山本美樹/「立法と調査」NO.194・1996年7月)


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