法制執務コラム

法律の現代語化―求められる法文の民主化の努力―

 法律といえば一般には何か難しいものといったイメージがつきまといがちです。特にその感を強くさせているのが、戦前に制定された漢文調の片仮名・文語体の法律の存在ではないでしょうか。最近、このような片仮名・文語体表記の法律を平易化しようとする動きがようやく出るようになってきています。

 現在、法律を新たに制定しようとする場合には、原則として常用漢字と平仮名を用い、口語体で表記することとされています。このように法令において平仮名・口語体が用いられるようになったのは、昭和21年4月17日に公表された憲法改正草案に始まります。これを受け翌18日の次官会議で「各官廰における文書の文體等に関する件」が決定され、それ以後立案される法令は平仮名・口語体によることとなったのです。ちなみに、最初の平仮名・口語体表記の法律は21年7月23日に公布された郵便法の一部を改正する法律(昭和21年法律第3号)だとされています。

 ところで、日本国憲法98条1項は、旧憲法の下で制定された法令で内容的に憲法に矛盾するものは無効とするが、そうでないものは法令としての効力を有することを認めました。また、片仮名・文語体の法律を改正する場合には、法律の全部改正や新たに追加または全部改正される特定の編・章については平仮名・口語体によるものとされていますが、そうでない場合には元のとおり片仮名・文語体の表記のままで改正されることになっています。その結果、現在においても、片仮名・文語体の法律が存在しており、中には民法、健康保険法などのように片仮名・文語体と平仮名・口語体が混在しているものもあります。片仮名・文語体表記の現行法律の数は、実効性を喪失しているものもあり得るので余りハッキリとはしませんが、130件前後といわれています。現行法律の数が現在1500件強ということですから、そのうちの1割弱がいまだ古いスタイルのままとなっているというわけです。そしてそのうちには国民生活に関係の深い民法、商法なども含まれています。

 そもそも法律はその適用を受ける国民のためにあるのであり、そのためにはできるだけ一般の国民にわかりやすいものであるべきで、このような片仮名・文語体の法律の存在は問題があるといわざるを得ないでしょう。

 もちろん、これまでにもそれらを平易化しようとする動きがみられなかったわけではありません。しかし、これを改める場合には形式だけでなく内容をも改めるべきだとの建前論や、所管省庁等のこの問題に対する関心の低さなどもあって、見直しは遅々として進まない状況であったといえます。また、法律を現代語化するということは、用語の置換えといった単純なものではなく、その作業は困難かつ膨大なものとなることも否定できません。だからといって、これを法治国家として放置していいというわけではないでしょう。

 そういった意味では、時間がかかる内容の改正をひとまずおいた本年の刑法の現代語化、さらには民法・商法の現代語化の検討の動きは大いに評価されるところです。また、社会情勢の変化とともに古い法律を抜本的に見直す機会が今後とも増えてきそうです。法文では正確性や格調といったことも重要ですが、平易化は法文を国民本位のものとしていくための第一歩であり、国会と政府による地道な努力が求められているといえます。

(川崎政司/「立法と調査」NO.189・1995年9月)


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