参議院法制局

第141回国会参法第1号


解雇等の規制に関する法律(案)

目次

第一章 総則(第一条−第三条)

第二章 解雇等の規制(第四条−第十四条)

第三章 雑則(第十五条−第二十五条)

第四章 罰則(第二十六条−第二十八条)

附則

第一章 総則

(目的)

第一条 この法律は、解雇等について必要な規制を行うことにより、不当な解雇等が行われないようにするとともに、解雇等に際しての労働者の保護を図り、もって労働者の雇用の安定に資することを目的とする。

(定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 労働者 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者をいう。

二 使用者 労働基準法第十条に規定する使用者をいう。

三 継続期間雇用労働者 期間を定めて雇用される労働者であって、継続勤務した期間が一年を超えるものをいう。

四 出向 使用者との雇用関係の下に、当該使用者の指定する者に雇用され、当該指定に係る者のために労働に従事することをいう。ただし、引き続き実質的に当該使用者による指揮命令を受けるものを除く。

五 転籍 使用者との雇用関係を終了させるとともに、当該使用者の指定する者に雇用されることをいう。

(この法律違反の契約)

第三条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。

第二章 解雇等の規制

(解雇の制限)

第四条 使用者は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、労働者を解雇することができない。

一 労働者が、勤務成績が著しく良くない場合、負傷、疾病又は障害のため職務の遂行ができない場合その他職務に必要な適性を著しく欠く場合

二 労働者が企業の服務上の規律に著しく反した場合

三 労働者が労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約(特定の事業場に雇用される労働者の過半数を代表する労働組合との間で締結されるものに限る。)に基づいており、かつ、労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)第七条第一号本文の規定に違反しない場合

四 次の要件を満たす場合

イ 事業の合理的な経営上労働者の数を減少させる必要があること。

ロ 解雇を回避するための最大限の努力が尽くされたこと。

ハ ロの努力が尽くされた上でなお解雇しなければ事業の経営に支障が生ずること。

ニ 解雇しようとする者を選定するための基準が合理的であり、かつ、当該基準に従った人選がなされたこと。

ホ イからニまでに掲げる事項及び解雇の時期その他の労働省令で定める事項について、使用者と労働組合(労働組合が二以上ある場合には、すべての労働組合)及び労働組合に加入していない労働者がある場合には当該労働者を代表する者との協議がなされたこと。

2 試みの雇用期間中の労働者に関しては、前項第一号中「労働者が、勤務成績が著しく良くない場合、負傷、疾病又は障害のため職務の遂行ができない場合その他職務に必要な適性を著しく欠く場合」とあるのは、「試みの雇用期間中の労働者であることを考慮して能力又は適性を欠くことに基づき解雇することができる場合として労働省令で定める場合」とする。

(継続期間雇用労働者の労働契約の更新)

第五条 継続期間雇用労働者が使用者に対し労働契約の更新をしない旨を通知しなかった場合においては、従前の労働契約と同一の条件で当該労働契約を更新したものとみなす。ただし、前条第一項各号のいずれかに該当する場合に相当する場合において、使用者が当該労働契約の更新を拒むときは、この限りでない。

(解雇等の予告)

第六条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、次の各号に掲げる労働者の区分に応じ、少なくとも当該各号に定める日数前にその予告をしなければならない。当該日数前に予告をしない使用者は、当該日数分以上の平均賃金(労働基準法第十二条に規定する平均賃金をいう。以下同じ。)を支払わなければならない。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りでない。

一 十五年以上継続勤務した労働者 百八十日

二 十年以上十五年未満継続勤務した労働者 百五十日

三 五年以上十年未満継続勤務した労働者 百二十日

四 二年以上五年未満継続勤務した労働者 九十日

五 前各号に掲げる労働者以外の労働者 三十日

2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。

3 第一項ただし書の場合においては、その事由について労働基準監督署長の認定を受けなければならない。

第七条 前条の規定は、次の各号のいずれかに該当する労働者については適用しない。ただし、第一号若しくは第二号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き雇用されるに至った場合又は第三号に該当する者が十四日を超えて引き続き雇用されるに至った場合においては、この限りでない。

一 二月以内の期間を定めて雇用される労働者

二 季節的業務に四月以内の期間を定めて雇用される労働者

三 試みの雇用期間中の労働者

第八条 第六条の規定は、使用者が継続期間雇用労働者又は一月を超えて引き続き雇用されるに至った日々雇用される労働者(第二十五条において「特定日々雇用労働者」という。)に対しその労働契約の更新を拒もうとする場合について準用する。

(解雇等の理由に関する書面の交付)

第九条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、解雇の予告をする場合にあっては当該予告に際し、解雇の予告をしない場合にあっては当該解雇に際し、当該労働者に対し、第四条第一項各号に掲げる場合のいずれに該当するかを明らかにした書面を交付しなければならない。

2 前項の規定は、使用者が継続期間雇用労働者に対しその労働契約の更新を拒もうとする場合について準用する。

(再就職の準備のための有給休暇)

第十条 使用者は、第四条第一項第四号に該当する場合又は労働者が業務上の負傷、疾病若しくは障害のため職務の遂行ができない場合における解雇をしようとする場合において、第六条第一項の規定による予告をしたときは、当該予告に係る労働者に対し、一日又は一時間を単位とする十労働日の再就職の準備のための有給休暇を与えなければならない。

2 次の各号に掲げる労働者(一週間の所定労働時間が労働省令で定める時間以上の者を除く。)の有給休暇の日数については、前項の規定にかかわらず、同項の規定による有給休暇の日数を基準とし、通常の労働者の一週間の所定労働日数として労働省令で定める日数(第一号において「通常の労働者の週所定労働日数」という。)と当該労働者の一週間の所定労働日数又は一週間当たりの平均所定労働日数との比率を考慮して労働省令で定める日数とする。

一 一週間の所定労働日数が通常の労働者の週所定労働日数に比し相当程度少ないものとして労働省令で定める日数以下の労働者

二 週以外の期間によって所定労働日数が定められている労働者については、一年間の所定労働日数が、前号の労働省令で定める日数に一日を加えた日数を一週間の所定労働日数とする労働者の一年間の所定労働日数その他の事情を考慮して労働省令で定める日数以下の労働者

3 使用者は、前二項の規定による有給休暇を労働者の請求する時期に与えなければならない。ただし、請求された時期に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時期にこれを与えることができる。

4 使用者は、第一項及び第二項の規定による有給休暇の期間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、平均賃金又は所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金(労働基準法第十一条に規定する賃金をいう。以下同じ。)を支払わなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その期間について、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第三条に定める標準報酬日額に相当する金額を支払う旨を定めたときは、これによらなければならない。

5 前項の規定による賃金の請求権は、二年間行わない場合においては、時効によって消滅する。

6 前各項の規定は、使用者が、継続期間雇用労働者に対し、第四条第一項第四号に該当する場合に相当する場合又は当該継続期間雇用労働者が業務上の負傷、疾病若しくは障害のため職務の遂行ができない場合における労働契約の更新の拒絶をしようとする場合において、第八条において準用する第六条第一項の規定による予告をしたときについて準用する。

(不利益取扱いの禁止)

第十一条 使用者は、前条第一項又は第二項(同条第六項において準用する場合を含む。)の規定による有給休暇を取得した労働者に対し、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

(使用者の求めに応じた退職の意思表示の取消し)

第十二条 使用者の求めに応じて退職の意思表示(転籍についての同意を除く。)をした労働者は、当該退職の意思表示をした日から起算して十四日を経過するまでの間は、書面により当該退職の意思表示の取消しをすることができる。この場合において、使用者は、当該退職の意思表示の取消しに伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。

2 前項の規定による退職の意思表示の取消しは、同項の書面を発した時に、その効力を生ずる。

(出向及び転籍)

第十三条 使用者は、労働者の同意を得なければ、当該労働者に出向又は転籍をさせることができない。

2 使用者は、出向又は転籍について労働者の同意を得ようとする場合においては、その旨及び当該出向又は転籍に係る次の各号に掲げる事項を記載した書面を当該労働者に交付するとともに、同意を得るための期間として当該書面を交付する日から起算して三十日以上の期間を定めてこれを当該労働者に通知しなければならない。当該書面に記載した事項を変更しようとする場合においても、同様とする。

一 当該労働者が雇用されることとなる者として使用者が指定する者(第三号において「出向先等」という。)の氏名又は名称

二 出向又は転籍の期間を定める場合においては、当該期間

三 出向先等における就業の場所、従事すべき業務、労働時間、賃金その他労働省令で定める労働条件

四 出向又は転籍に伴い賃金その他の労働省令で定める事項について使用者が講ずる措置

3 使用者は、出向又は転籍について労働者の同意を得た場合においては、速やかに、当該同意に係る前項各号に掲げる事項を記載した書面を当該労働者に交付しなければならない。

4 前項の規定により交付された書面に記載された事項が事実と相違する場合においては、労働者は、出向又は転籍についての同意を取り消すことができる。

5 使用者は、労働者が出向又は転籍について同意しなかったことを理由として、当該労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

(就業の拒否の制限)

第十四条 使用者は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、労働者の就業を拒んではならない。

一 他の法令の定めるところにより労働者を就業させてはならない場合

二 労働者に対する制裁として合理性が認められる場合

三 事業の経営上労働者の就業を拒むことについて合理的な理由があると認められる場合として労働省令で定める場合

第三章 雑則

(法令の周知)

第十五条 使用者は、この法律又はこれに基づく命令の要旨を、常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付ける等の方法により、労働者に周知させなければならない。

(労働基準監督署長及び労働基準監督官)

第十六条 労働基準監督署長及び労働基準監督官は、労働省令で定めるところにより、この法律の施行に関する事務をつかさどる。 

第十七条 労働基準監督官は、この法律の規定に違反する罪について、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定による司法警察員の職務を行う。

(報告等)

第十八条 都道府県労働基準局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、労働省令で定めるところにより、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。

(立入検査)

第十九条 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業場に立ち入り、関係者に質問し、又は帳簿、書類その他の物件を検査することができる。

2 前項の規定により立入検査をする労働基準監督官は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。

3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

(労働者の申告)

第二十条 労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働基準局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告することができる。

2 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

(付加金の支払)

第二十一条 裁判所は、第六条(第八条において準用する場合を含む。)の規定に違反した使用者又は第十条第四項(同条第六項において準用する場合を含む。)の規定による賃金を支払わなかった使用者に対し、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあった時から二年以内にしなければならない。

(中央労働基準審議会への諮問)

第二十二条 労働大臣は、第四条第一項第四号ホ及び第二項、第十条第二項、第十三条第二項第三号及び第四号並びに第十四条第三号の労働省令の制定又は改正の立案をしようとするときは、あらかじめ、中央労働基準審議会の意見を聴かなければならない。

(経過措置の命令への委任)

第二十三条 この法律の規定に基づき命令を制定し、又は改廃する場合においては、その命令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)を定めることができる。

(労働省令への委任)

第二十四条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のために必要な手続その他の事項は、労働省令で定める。

(適用除外)

第二十五条 この法律の規定は、第六条、第七条、第八条(特定日々雇用労働者に係る部分に限る。)及び第十五条から第二十一条までの規定(これらの規定に係る罰則の規定を含む。)を除き、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。

2 この法律は、船員法(昭和二十二年法律第百号)の適用を受ける船員については、適用しない。

第四章 罰則

第二十六条 第六条(第八条において準用する場合を含む。)、第十三条第五項又は第二十条第二項の規定に違反した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

第二十七条 次の各号の一に該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

一 第九条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、書面を交付せず、又は虚偽の記載のある書面を交付した者

二 第十条第一項から第四項まで(同条第六項において準用する場合を含む。)又は第十五条の規定に違反した者

三 第十三条第三項の規定に違反して、書面を交付せず、又は同項に規定する事項が記載されていない書面若しくは虚偽の記載のある書面を交付した者

四 第十八条の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかった者

五 第十九条の規定による立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をした者

第二十八条 この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をした代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。ただし、事業主(事業主が法人である場合においてはその代表者、事業主が営業に関し成年者と同一の能力を有しない未成年者又は禁治産者である場合においてはその法定代理人を事業主とする。次項において同じ。)が違反の防止に必要な措置をした場合においては、この限りでない。

2 事業主が、違反の計画を知りその防止に必要な措置を講じなかった場合、違反行為を知りその是正に必要な措置を講じなかった場合又は違反を教唆した場合においては、事業主も行為者として罰する。

附 則

(施行期日)

第一条 この法律は、平成十年七月一日から施行する。

(経過措置)

第二条 第十二条の規定は、この法律の施行後になされる退職の意思表示について適用する。

第三条 第十三条の規定は、使用者が労働者に対しこの法律の施行後に出向又は転籍について同意を求める場合について適用する。

 

理 由

 最近における景気の動向、産業構造の変化等を背景として、解雇、使用者の求めに応じた退職、出向、転籍等が多く行われていることにかんがみ、不当な解雇等が行われないようにするとともに、解雇等に際しての労働者の保護を図るため、解雇等について必要な規制を行う必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。