参議院法制局

第140回国会参法第3号


臓器の移植に関する法律(案)

(目的)

第一条 この法律は、臓器の移植についての基本的理念を定めるとともに、移植術に使用されるために提供する意思に基づいて行われる臓器の死体又は脳死状態にある者の身体からの摘出、臓器売買等の禁止等につき必要な事項を規定することにより、移植医療の適正な実施に資することを目的とする。

(基本的理念)

第二条 自己の臓器の移植術に使用されるための死亡後又は脳死状態における提供に関する意思は、尊重されなければならない。

2 移植術に使用されるための臓器の提供は、任意にされたものでなければならない。

3腎臓器の移植は、移植術に使用されるための臓器が人道的精神に基づいて提供されるものであることにかんがみ、移植術を必要とする者に対して適切に行われなければならない。

4 移植術を必要とする者に係る移植術を受ける機会は、公平に与えられるよう配慮されなければならない。

(国及び地方公共団体の責務)

第三条 国及び地方公共団体は、移植医療について国民の理解を深めるために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

(医師の責務)

第四条 医師は、臓器の移植を行うに当たっては、診療上必要な注意をしなければならない。

2 医師は、移植術に使用されるための臓器の摘出又は移植術を行うに当たっては、移植術に使用されるための臓器を提供する遺族若しくは移植術に使用されるための臓器を提供する脳死状態にある者の家族又は移植術を受ける者若しくはその家族に対し必要な説明を行い、その理解を得るよう努めなければならない。

(定義等)

第五条 この法律において「臓器」とは、人の心臓、肺、肝臓、腎臓その他厚生省令で定める内臓及び眼球をいう。

2 この法律において「移植術」とは、臓器の機能に障害がある者に対し臓器の機能の回復又は付与を目的として行われる臓器の移植術をいう。

3 この法律において「脳死状態」とは、脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された身体の状態をいう。

4 前項の判定は、これを的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師(当該判定がなされた場合に当該脳死状態にある者の身体から臓器を摘出し、又は当該臓器を使用した移植術を行うこととなる医師を除く。)の一般に認められている医学的知見に基づき厚生省令で定めるところにより行う判断の一致によって、行われるものとする。

(死体からの臓器の摘出)

第六条 医師は、死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないときは、移植術に使用されるための臓器を、死体から摘出することができる。

(脳死状態にある者の身体からの臓器の摘出)

第七条 医師は、脳死状態にある者が臓器を移植術に使用されるために脳死状態において提供する意思を書面(脳死状態にある者の署名及び作成の年月日の記載があるものに限る。)により表示している場合であって、その旨の告知を受けた家族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は家族がないときは、移植術に使用されるための臓器を、脳死状態にある者の身体から摘出することができる。

2 前項の場合においては、脳死状態にある者の身体からの臓器の摘出がその者の生命に重大な影響を及ぼすものであることにかんがみ、同項の書面により表示された意思は、十分な調査を行い、慎重に確かめられなければならない。

(臓器の摘出の制限)

第八条 医師は、第六条の規定により死体から臓器を摘出しようとする場合において、当該死体について刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第二百二十九条第一項の検視その他の犯罪捜査に関する手続が行われるときは、当該手続が終了した後でなければ、当該死体から臓器を摘出してはならない。

2 医師は、前条の規定により脳死状態にある者の身体から臓器を摘出しようとする場合において、当該脳死状態にある者の身体について刑事訴訟法第二百十八条の規定により行われる身体の検査その他の犯罪捜査に関する手続(以下この条において単に「犯罪捜査に関する手続」という。)が行われるときは、当該犯罪捜査に関する手続が終了した後でなければ、当該脳死状態にある者の身体から臓器を摘出してはならない。

3 医師は、前条の規定により脳死状態(犯罪行為によるものでないことが明らかなものを除く。)にある者の身体から臓器を摘出しようとする場合において、当該脳死状態にある者の身体について犯罪捜査に関する手続が行われていないときは、厚生省令で定めるところにより、当該脳死状態にある者の現在地を管轄する地方検察庁又は区検察庁の検察官及び警察署長にその旨を通知しなければならない。この場合において、当該通知を受けた検察官及び警察署長は、当該脳死状態にある者の身体からの臓器の摘出が当該脳死状態にある者の身体についての犯罪捜査に関する手続に支障が生ずるおそれがあると認めるときは、当該臓器の摘出に対して異議を述べるものとする。

4 医師は、前項の規定により異議が述べられたときは、当該脳死状態にある者の身体からの臓器の摘出が当該脳死状態にある者の身体についての犯罪捜査に関する手続に支障が生ずるおそれがないと認められるまでの間は、当該脳死状態にある者の身体から臓器を摘出してはならない。

(礼意の保持)

第九条 第六条及び第七条の規定により臓器を摘出するに当たっては、礼意を失わないよう特に注意しなければならない。

(使用されなかった部分の臓器の処理)

第十条 病院又は診療所の管理者は、第六条又は第七条の規定により摘出された臓器であって、移植術に使用されなかった部分の臓器を、厚生省令で定めるところにより処理しなければならない。

(記録の作成等)

第十一条 医師は、第六条の規定による臓器の摘出若しくは当該臓器を使用した移植術又は第七条の規定により脳死状態にある者の身体から臓器が摘出された場合における第五条第三項の判定、第七条の規定による臓器の摘出若しくは当該臓器を使用した移植術を行った場合には、厚生省令で定めるところにより、これらに関する記録を作成しなければならない。

2 前項の記録は、病院又は診療所に勤務する医師が作成した場合にあっては当該病院又は診療所の管理者が、病院又は診療所に勤務する医師以外の医師が作成した場合にあっては当該医師が、五年間保存しなければならない。

3 前項の規定により第一項の記録を保存する者は、移植術に使用されるための臓器を提供した遺族その他の厚生省令で定める者から当該記録の閲覧又は謄写の請求があった場合には、厚生省令で定めるところにより、閲覧又は謄写を拒むことについて正当な理由がある場合を除き、当該記録のうち個人の権利利益を不当に侵害するおそれがないものとして厚生省令で定めるものの閲覧又は謄写をさせるものとする。

(臓器売買等の禁止)

第十二条 何人も、移植術に使用されるための臓器を提供すること若しくは提供したことの対価として財産上の利益の供与を受け、又はその要求若しくは約束をしてはならない。

2 何人も、移植術に使用されるための臓器の提供を受けること若しくは受けたことの対価として財産上の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。

3 何人も、移植術に使用されるための臓器を提供すること若しくはその提供を受けることのあっせんをすること若しくはあっせんをしたことの対価として財産上の利益の供与を受け、又はその要求若しくは約束をしてはならない。

4 何人も、移植術に使用されるための臓器を提供すること若しくはその提供を受けることのあっせんを受けること若しくはあっせんを受けたことの対価として財産上の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。

5 何人も、臓器が前各項の規定のいずれかに違反する行為に係るものであることを知って、当該臓器を摘出し、又は移植術に使用してはならない。

6 第一項から第四項までの対価には、交通、通信、移植術に使用されるための臓器の摘出、保存若しくは移送又は移植術等に要する費用であって、移植術に使用されるための臓器を提供すること若しくはその提供を受けること又はそれらのあっせんをすることに関して通常必要であると認められるものは、含まれない。

(業として行う臓器のあっせんの許可)

第十三条 業として移植術に使用されるための臓器(死体又は脳死状態にある者の身体から摘出されるもの又は摘出されたものに限る。)を提供すること又はその提供を受けることのあっせん(以下「業として行う臓器のあっせん」という。)をしようとする者は、厚生省令で定めるところにより、臓器の別ごとに、厚生大臣の許可を受けなければならない。

2 厚生大臣は、前項の許可の申請をした者が次の各号のいずれかに該当する場合には、同項の許可をしてはならない。

一 営利を目的とするおそれがあると認められる者

二 業として行う臓器のあっせんに当たって当該臓器を使用した移植術を受ける者の選択を公平かつ適正に行わないおそれがあると認められる者

(秘密保持義務)

第十四条 前条第一項の許可を受けた者(以下「臓器あっせん機関」という。)若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であった者は、正当な理由がなく、業として行う臓器のあっせんに関して職務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。

(帳簿の備付け等)

第十五条腎臓器あっせん機関は、厚生省令で定めるところにより、帳簿を備え、その業務に関する事項を記載しなければならない。

2腎臓器あっせん機関は、前項の帳簿を、最終の記載の日から五年間保存しなければならない。

(報告の徴収等)

第十六条 厚生大臣は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、臓器あっせん機関に対し、その業務に関し報告をさせ、又はその職員に、臓器あっせん機関の事務所に立ち入り、帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。

2 前項の規定により立入検査又は質問をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。

3 第一項の規定による立入検査及び質問をする権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

(指示)

第十七条 厚生大臣は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、臓器あっせん機関に対し、その業務に関し必要な指示を行うことができる。

(許可の取消し)

第十八条 厚生大臣は、臓器あっせん機関が前条の規定による指示に従わないときは、第十三条第一項の許可を取り消すことができる。

(経過措置)

第十九条 この法律の規定に基づき厚生省令を制定し、又は改廃する場合においては、その厚生省令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)を定めることができる。

(厚生省令への委任)

第二十条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のための手続その他この法律の施行に関し必要な事項は、厚生省令で定める。

(罰則)

第二十一条 第十二条第一項から第五項までの規定に違反した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

2 前項の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。

第二十二条 第十三条第一項の許可を受けないで、業として行う臓器のあっせんをした者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第二十三条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。

一 第八条第三項の規定による通知をしなかった者

二 第十条の規定に違反した者

三 第十一条第一項の規定に違反して、記録を作成せず、若しくは虚偽の記録を作成し、又は同条第二項の規定に違反して記録を保存しなかった者

四 第十四条の規定に違反した者

五 第十五条第一項の規定に違反して、帳簿を備えず、帳簿に記載せず、若しくは虚偽の記載をし、又は同条第二項の規定に違反して帳簿を保存しなかった者

六 第十六条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくは同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者

2 前項第四号の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

第二十四条 法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。以下この項において同じ。)の代表者若しくは管理人又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前三条(前条第一項第四号を除く。)の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。

2 前項の規定により法人でない団体を処罰する場合には、その代表者又は管理人がその訴訟行為につきその団体を代表するほか、法人を被告人又は被疑者とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。

第二十五条 第二十一条第一項の場合において供与を受けた財産上の利益は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。

附 則

(施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して三月を経過した日から施行する。

(検討)

第二条 この法律による臓器の移植については、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況を勘案し、その全般について検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるべきものとする。

2 政府は、ドナーカードの普及及び臓器移植ネットワークの整備のための方策に関し検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

3 血管、皮膚その他の組織の移植については、この法律の適用を含めその適正な実施に資するための措置について検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

(角膜及び腎臓の移植に関する法律の廃止)

第三条 角膜及び腎臓の移植に関する法律(昭和五十四年法律第六十三号)は、廃止する。

(経過措置)

第四条 医師は、当分の間、第六条に規定する場合のほか、死亡した者が生存中に眼球又は腎臓を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合及び当該意思がないことを表示している場合以外の場合であって、遺族が当該眼球又は腎臓の摘出について書面により承諾しているときにおいても、移植術に使用されるための眼球又は腎臓を、死体から摘出することができる。

2 前項の規定により死体から眼球又は腎臓を摘出する場合においては、第八条第一項、第九条、第十条及び第十一条第一項中「第六条」とあるのは「附則第四条第一項」と読み替えて、これらの規定(これらの規定に係る罰則を含む。)を適用する。

第五条 この法律の施行前に附則第三条の規定による廃止前の角膜及び腎臓の移植に関する法律(以下「旧法」という。)第三条第三項の規定による遺族の書面による承諾を受けている場合(死亡した者が生存中にその眼球又は腎臓を移植術に使用されるために提供する意思がないことを表示している場合であって、この法律の施行前に角膜又は腎臓の摘出に着手していなかったときを除く。)又は同項ただし書の場合に該当していた場合の眼球又は腎臓の摘出については、なお従前の例による。

第六条 旧法第三条の規定(前条の規定によりなお従前の例によることとされる眼球又は腎臓の摘出に係る旧法第三条の規定を含む。次条及び附則第八条において同じ。)により摘出された眼球又は腎臓の取扱いについては、なお従前の例による。

第七条 旧法第三条の規定により摘出された眼球又は腎臓であって、角膜移植術又は腎臓移植術に使用されなかった部分の眼球又は腎臓のこの法律の施行後における処理については、当該摘出された眼球又は腎臓を第六条の規定により死体から摘出された臓器とみなし、第十条の規定(これに係る罰則を含む。)を適用する。

第八条 旧法第三条の規定により摘出された眼球又は腎臓を使用した移植術がこの法律の施行後に行われた場合における当該移植術に関する記録の作成、保存、閲覧及び謄写については、当該眼球又は腎臓を第六条の規定により死体から摘出された臓器とみなし、第十一条の規定(これに係る罰則を含む。)を適用する。

第九条 この法律の施行の際現に旧法第八条の規定により業として行う眼球又は腎臓の提供のあっせんの許可を受けている者は、第十三条第一項の規定により当該臓器について業として行う臓器のあっせんの許可を受けた者とみなす。

第十条 この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(厚生省設置法の一部改正)

第十一条 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。

 第五条第四十号中「角膜及び腎臓の移植に関する法律(昭和五十四年法律第六十三号)」を「臓器の移植に関する法律(平成九年法律第   号)」に改める。

 第六条第四十号中「角膜及び腎臓の移植に関する法律」を「臓器の移植に関する法律」に、「眼球又は腎臓の提供」を「臓器」に改める。

 

理 由

 移植医療の置かれている状況等にかんがみ、人道的見地に立って、臓器の移植が臓器提供者の意思の尊重を前提として移植術を必要とする者に対して適切に行われるようにするため、臓器の移植について、本人の臓器提供に関する意思の尊重、移植機会の公平性の確保等の基本的理念を定め、並びに国、地方公共団体及び医師の責務を明らかにするとともに、臓器の範囲、死体又は脳死状態にある者の身体からの臓器の摘出、臓器の移植に関する記録の作成、保存、閲覧及び謄写、臓器売買等の禁止、臓器あっせん機関に対する規制及び監督等について必要な事項を定め、もって移植医療の適正な実施に資することとする必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。