法制執務コラム

立法例について

 法令は、社会のルールといえるものですが、その形式・構成・規定の順序についてのルールは、法律で定められているわけではなく、慣例・慣行によって形成されています。

 法令における用語や表現についても同じであり、長い時間をかけてある種の"型"が作られてきたものがあります。ほぼ同じ意味内容を持つのであれば、同じ用語や表現の"型"を用いることが多く、それらは、1つの法律やそれに基づく政省令のみならず、同一分野の他の法律間や異分野の法律間で用いられることもあります。

 このような"型"になっているものも、いないものも含めて、既存の法令における用語や表現の例(立法例)は、立案担当者が法令を立案する際に参考にすべき事柄の1つとなっています。用語や表現をバラバラに使うと、規定の明確性や正確性、さらには法体系の統一性や整合性が保たれなくなってしまうためです。

 ただ、参考にできそうな立法例を見付け出すことができたとしても、それをそのまま利用することには注意が必要となります。用語や表現は、それぞれの法令のそれぞれの規定の中で意味付けがなされるものであり、用語や表現の"字面"が同じであっても、その意味が文脈によって異なることも多くあるからです。

 したがって、立法例を利用できるかどうかについて判断するためには、立案している法令の中にどのような規定を置こうとしているのか、その規定の目的や意味内容を明確にした上で、その規定の文脈においてその立法例を利用することが可能かどうかについて十分に検討する必要があります。

 実際の立案作業という面で見てみると、かつては、各分野における法令の条文についての知識と経験、時には勘も頼りにして、法令集を片っ端から調べて立法例を見付け出したそうです。その積重ねによって現在の整った法体系ができていることを思うと、その労力がどれほどのものであったかと驚嘆せずにはいられません。現在では、法令検索のデータベースが充実しており、様々なバリエーションの立法例を簡単に見付け出すことができます。これは非常に便利である一方、ともすれば、表現上の一致度がより高い立法例や、類似の立法例の中でより多く用いられている立法例を見付け出すことに傾注しすぎてしまい、立法例を読み込んでそれがどのような意味を持つのか、また、立案している法律案においてその立法例を利用することが適当かどうかについて余り深く検討しないままに原案を作成してしまうおそれもあり、そうならないように立案作業を行う必要があります。

 このコラムは法制執務の一端を皆様に紹介するものではありますが、原稿を書きながら私自身が、この基本的な事柄について初心に立ち返っているところです。

(下野久欣/「立法と調査」NO.346・2013年11月)


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