法制執務コラム

法令集の散策

 法令集から、はっとする法令・条約を集めてみました。肩の力を抜いて読んでください。

 「臘虎膃肭獣猟獲取締法」。題名を読もうと思っても最初から挫折感を味わうのがこの法律です。「臘虎」は「らっこ」、「膃肭獣」は「おっとつじゅう」と読み、オットセイのことです。「臘虎膃肭獣猟獲取締法施行規則」の条文中では、「らっこ」、「おっとせい」と書かれています。

 題名といえば、「千八百九十六年五月四日にパリで補足され、千九百八年十一月十三日にベルリンで改正され、千九百十四年三月二十日にベルヌで補足され並びに千九百二十八年六月二日にローマで、千九百四十八年六月二十六日にブラッセルで、千九百六十七年七月十四日にストックホルムで及び千九百七十一年七月二十四日にパリで改正された千八百八十六年九月九日の文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」という非常に長い題名の条約があります。題名中に補足と改正の経緯が延々と書かれているのが特徴で、日本語で183文字もあります。

 条約といえば、月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約第1条は、「天体のすべての地域への立入りは、自由である。」としています。お言葉に甘えて、週末はふらっと土星にでも立ち寄られてはいかがでしょうか。第5条で宇宙飛行士は「宇宙空間への人類の使節とみな」されていますので、「事故、遭難又は他の当事国の領域若しくは公海における緊急着陸の場合には、その宇宙飛行士にすべての可能な援助を与え」ましょう。

 スターウォーズではなく、大日本帝国のことです。印紙犯罪処罰法第1条「行使ノ目的ヲ以テ帝国政府ノ発行スル印紙又ハ印紙金額ヲ表彰スヘキ印章ヲ偽造又ハ変造シタル者ハ五年以下ノ懲役ニ処ス」。同法第4条「本法ハ何人ヲ問ハス帝国外ニ於テ第一条又ハ第ニ条ノ罪ヲ犯シタル者ニ之ヲ適用ス」。「帝国」でも立派な現行法です。裁判所は、「帝国政府」は「要するにわが国の政府」としています。

 建築基準法施行令第75条の見出しを見ると、一瞬頭が混乱します。「(コンクリートの養生)」。コンクリートも体調を崩すのでしょうか。心配になって条文を見ると、「コンクリート打込み中及び打込み後五日間は、コンクリートの温度が二度を下らないようにし、かつ、乾燥、震動等によつてコンクリートの凝結及び硬化が妨げられないように養生しなければならない。」とあります。専門家の世界では「養生」という言葉を使うのです。

 養生はお笑いで。所得税法施行令第320条第5項は、「法第二百四条第一項第五号に規定する政令で定める芸能人は、・・・講談師、落語家、浪曲師、漫談家、漫才家、腹話術師、歌手、奇術師、曲芸師又は物まね師とする」としています。「漫才師」ではなく、「漫才家」なのですね。「物まね師」という言葉は、私はこの規定で初めて知りました。

 とかく難解なものと敬遠されがちな法令・条約ですが、読んでみれば案外楽しい発見もあるものです。少しでも法令・条約を身近なものに感じていただければ幸いです。

(尾崎陽一/「立法と調査」NO.250・2005年9月)


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