法制執務コラム

海外で国内法に違反する行為をした場合に国内法を適用できるのか?

 法律は、原則として、日本国内の領土の全域にその効力を及ぼします。この「領土」は、領海、領空も含む広義の領土を意味するものです。したがって、日本の領海上や領空上で国内法に違反する行為をすれば、国内法が適用され、処罰できます。これに対して、海外で国内法に違反する行為をした場合には、原則として国内法が適用されないので処罰できません。

 しかし、海外での違法行為に国内法を適用できないという原則を貫徹すると、法律の実効性を確保できない場合もあります。そこで、法律の中には、日本国外での違法行為に国内法を適用する旨の規定を置き、その効力を日本国外にも及ぼすものが存在します。

 刑法(明治40年法律第45号)は、第1条第1項で「日本国内において罪を犯したすべての者に適用する」と原則を定める一方で、同条第2項等でその例外を定めています。例えば、次の場合は、日本国外で刑法違反の行為をしていますが、その行為者には刑法が適用されます(第1条第2項等参照)。

① 公海上を飛行する日本航空機内において、暴行して傷を負わせた場合 

② 海外において、行使の目的で1万円札を偽造した場合 

③ 海外において、日本国民が住居に放火した場合 

④ 海外において、日本国の公務員が職務に関し賄賂を収受した場合 

 ①②の場合は、その行為者が日本国民に限定されませんが、③の場合は、その行為者が日本国民に、④の場合は、その行為者が日本国の公務員に限定されます。①から④までの場合で行為者の要件が異なるのは、刑罰を科す趣旨がそれぞれ異なるからです。すなわち、①の場合は、日本航空機内での犯罪を日本国内での犯罪と同様に扱う属地主義に基づいて、②の場合は、国家的利益、社会的利益を守る保護主義に基づいて、③の場合は、日本国が日本国民に対して統治権を行使する属人主義に基づいて、④の場合は、属人主義及び日本国の公務の公正さに対する国民の信頼等を守る保護主義に基づいています。

 日本国外での違法行為に国内法を適用する旨の規定は、刑法以外にも会社更生法(平成14年法律第154号)、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)、サリン等による人身被害の防止に関する法律(平成7年法律第78号)等に置かれています。

 また、今国会では、企業の営業秘密の保護を強化するため、日本国内で管理されている営業秘密について日本国外で使用又は開示した者に不正競争防止法の規定を適用すること等を内容とする不正競争防止法等の一部を改正する法律案(第162回国会閣法第31号)が提出されました。

 人、物、情報等が日本国外に容易に移動できる現実を踏まえれば、今後は、日本国の国家的利益、日本国民の利益等を保護するため、日本国外での違法行為に国内法を適用する旨の規定を置く法律が増えていくのかもしれません。

(三俣真知子/「立法と調査」NO.247・2005年4月)


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