法制執務コラム

立法の過誤

 法律の形式、内容等に誤りがあることがあります。これを立法の過誤といいます。法律案は両議院で可決されると、たとえその形式、内容等に誤りがあったとしても、法律になります(憲法第59条第1項)。したがって、立法の過誤を訂正するには法律改正の手続が必要です。例えば、平成11年改正前の職業安定法(昭和22年法律第141号)第6条は、「労働力の需給供給を調整するための主要労働力需要供給圏の決定」としていましたが、「需給供給」は「需要供給」の誤りであり、現在では「需要供給」に改正されています。

 これに対し、官報を作成したときに生じた誤植を訂正するには、官報正誤欄による訂正となります。例えば、航空法(昭和27年法律第231号)第2条第5項の「着陸帯」の定義にある「矩形部分」は、平成11年の正誤で訂正されるまで、「短形部分」となっていました。

 立法の過誤が発覚した場合には、通常、当該法律が次に改正される機会に併せて直されていますが、長い間そのまま放置されていることもあります。例えば、非現住建造物等放火罪を定める平成7年改正前の刑法第109条第1項は、「火ヲ放テ現ニ人ノ住居ニ使用セス又ハ人ノ現在セサル建造物、艦船若クハ鉱坑ヲ焼燬シタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ処ス」としていました。しかし、人の住居に使用されていないことと人が現在しないこととは、ともに必要条件であるため、解釈により、「又ハ」は「かつ」と解されてきました。現在では「かつ」に改正されています。

 このような目立つ過誤例がある一方、『第○条中「△△△」を「×××」に改める。』という体裁をとる一部改正法の場合には、過誤を発見するのは至難のわざです。しかし、類似の過誤が時折発生しています。例えば、第○条中に「△△△」という文言が2箇所ある場合に1箇所だけ改正するつもりであったにもかかわらず、『第○条中「△△△」を「×××」に改める。』として2箇所とも改正してしまったものが時折あります。また、『第○条中「△△△」を「×××」に改める。』としているにもかかわらず、第○条中に「△△△」という文言が存在しないことがあります。以前は「△△△」という文言であったけれども、改正されたため現時点では「△△△」という文言ではないというときに生じがちな過誤です。

 最後に、平成11年改正前の地方自治法(昭和22年法律第67号)別表第3の4をご覧ください。立法の過誤の逸品です。

 『   公安委員会が管理し、及び執行しなければならない事務             

     犯罪被害者等給付金支給法(昭和五十五年法律第三十六号)の定めるところにより、犯罪被害者等給付金の支給を受ける権利を裁定する等の事務を行うこと。なお、 』

 「なお、」以下の静寂は、立案担当者が力尽きてしまったのでしょうか。

(尾崎陽一/「立法と調査」NO.242・2004年7月)


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