法制執務コラム

刑法上の罪の新設と改廃

 刑法は、犯罪と刑罰を定める私たちの生活に深いかかわりを持つ基本法の一つです。

 刑法は、あまりに頻繁に改正が行われると犯罪となる行為が何か、それを犯すとどのような刑罰が科されるかが国民に分かりにくくなるため好ましくないとされ、実際、改正も少なかったのですが、最近は頻繁に改正が行われています。明治40年に制定されてから約100年間に18回にわたり改正されましたが、平成13年には3回、平成15年には2回など、実に7回が平成に入ってからの改正です。 

 では、改正により、どのような罪が新設され、改廃されてきたのか、主なものを見てみましょう。 

 まず、戦後、昭和22年に大改正が行われました。新たに制定された日本国憲法の精神に沿うよう刑法全般について見直され、戦時体制を強化する意図から昭和16年に新設された安寧秩序に対する罪の削除、不敬罪や大逆罪といった皇室に対する罪の削除、夫のある女性が姦通する罪である姦通罪の削除などが行われました。姦通罪は、妻の姦通のみを罰し、夫の姦通は罰していなかったため、憲法第14条の法の下の平等に反するのではないかが問題とされ、男女平等に姦通罪を設けるか、本条を削除するか、議論の末、削除されたのです。

 その後も、社会の変化・時代状況に応じ、部分的な改正が行われました。 

 昭和30年代には、暴力対策立法の一環としていわゆるお礼参りの行為を処罰し得ることとする証人威迫罪や凶器準備集合罪等の新設、多発する身代金目的の誘拐事件に対処するための身代金目的誘拐罪・同予備罪の新設など略取誘拐罪の規定の見直しが行われました。また、昭和55年には、収賄罪等の法定刑の引上げが行われましたが、ロッキード事件が契機といわれています。 

 平成7年には、全文にわたり、現代用語化によりその表記が平易化されましたが、その際、尊属加重処罰を定めた規定も削除されました。昭和48年に最高裁判所から違憲の判断がなされ、違憲状態の解消が求められていた尊属殺人の罪に限らず、尊属傷害致死など被害者が尊属である場合を加重処罰する規定すべてが削除されました。被害者が尊属であるからといって、当然に加重処罰するべきでないという国民の意識の変化が背景にあるといえるでしょう。 

 社会の情報化への対応としては、昭和62年、コンピューター犯罪に対応するため、電磁的記録不正作出等の罪が、平成13年、クレジットカード犯罪等に対処するため、支払用カード電磁的記録に関する罪が新設されました。

 また、平成13年には危険運転致死傷罪も新設されました。悪質・危険な交通事犯に対し、被害者・遺族らを始めとして、厳しく対処するための法整備を求める声が高まっていたことが背景にあるといわれています。

 このように、刑法においては、決して多くはありませんが、社会の変化や時代状況に応じ、罪の新設や改廃が行われてきました。

 刑法の改正には慎重な議論を要することはもちろんですが、グローバル化、ネットワーク化により、ますます社会の変化が早まることが予想されます。その変化に迅速に対応するため、今後も罪の新設や改廃の必要が生じると思われます。刑事法制分野における立法府の役割はますます重要になることでしょう。

(岩井美奈/「立法と調査」NO.239・2004年1月)


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