法制執務コラム

法令の平易化について―これまでのあゆみを振り返る―

 とかく世間の人々から難解だと思われがちな法令の表現ですが、民主主義国家においては、国民にとってわかり易いものであることが理想です。これまでも、法令の平易化という理想に向けて、様々な工夫が積み重ねられてきました。今回は、その歴史を簡単に振り返ってみたいと思います。

 戦前の法令は、片仮名・文語体で、濁点や句読点も用いられず、見出しもなく、項番号も付されておらず、項の行頭を1字下げる習慣もありませんでした。

 もっとも、法令の平易化という問題意識が全くみられなかった訳ではなく、大正15年6月1日内閣訓令号外「法令形式ノ改善ニ関スル件」は、「法令ノ用字、用語及ビ文体ハナルベク之ヲ平易ニシ、一読ノ下容易ニ其ノ内容ヲ了解セシメンコトヲ期スベシ。」と述べているほか、濁点、句読点、括弧等の使用といった留意事項を具体的に挙げています。しかし、この訓令は、実際にはなかなか守られなかったようです。

 昭和21年4月17日に公表された憲法改正草案は、画期的な平仮名・口語体を採用しました。これがターニング・ポイントとなって、以後新たに作成される法令案は、平仮名・口語体が原則となりました。しかし、旧法を全面改正した民法第4編第5編や刑事訴訟法は平仮名・口語体に切り替わったものの、一部改正にとどまった民法第1編第2編第3編、刑法、商法、民事訴訟法等は、片仮名・文語体のまま残されることになりました。なお、日本国憲法は、項の行頭を1字下げるスタイルを採用した点でも目新しいものといえます。しかし、この段階では、仮名遣いに関しては旧仮名遣いのままであり、見出しもなく、項番号もありませんでした。

 仮名遣いについては、昭和21年11月16日、国語審議会の答申に基づいて、内閣告示第33号「現代かなづかい」及び内閣訓令第八号「『現代かなづかい』の実施に関する件」が発せられ、以後、現代の仮名遣いによることとなりました。

 条文の右肩に見出しを付した最初の例は、昭和22年の労働基準法でした。当初は、条文数が相当に多い法律にのみ付していましたが、これが法文の理解と検索に効果を発揮することが知られるにつれ、あらゆる法令に普及していくことになります。

 昭和23年頃からは、第2項以下の各項の冒頭に算用数字による項番号が付されるようになりました。これにより、第何項かを知るために項の数を勘定する手間が省けるようになりました。

 漢字使用及び送り仮名については、昭和56年10月1日付けの内閣法制局による通知「法令における漢字使用等について」により基準が示されました。現在、法令で使用する漢字は、原則として常用漢字表に掲げられる1945字に制限されています。

 以上のような立法上のルールの改善に加え、最近では、基本的な法典の平易化のための抜本改正が進められています。平成7年には刑法が、平成8年には民事訴訟法が、それぞれ平仮名・口語体に改められました。現在、民法・商法の平易化が政府において検討されています。

 社会は、時代とともに複雑化しています。それにつれて、法令も複雑化・精緻化する傾向にあります。「法令の平易化」は、今後も重要なテーマであり続けることでしょう。

(武蔵誠憲/「立法と調査」NO.234・2003年3月)


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