参議院法制局

「廃止制定」と「全部改正」

 ある法律の内容を全面的に改めようとする場合に、既存の法律を廃止すると同時に、これに代わる新しい法律を制定する方式がとられることがあります。この方式を「廃止制定」方式といいます。

 廃止制定方式による場合であっても、既存の法律の題名とこれに代わる新しい法律の題名とが同じであることは必ずしも珍しいことではありません。廃止された法律とこれに代わる新規制定法律の題名とが同じものとしては、国籍法(昭和25年法律第147号)、少年院法(平成26年法律第58号)、国有財産法(昭和23年法律第73号)などがあります。

 もう一つ、法律の内容の全面的改定を行う場合の方式としては、「全部改正」という方式があります。この方式は、形式的には既存の法律を存続させつつ、法律の中身全部を書き改めるものです。この場合の法律の中身には題名も含まれ、形式的には既存の法律を存続させるという趣旨からすれば一定の限界はあるものの、必要に応じて全部改正前の題名と異なる題名とすることは差支えないとされています。全部改正前の題名と改正後の題名とが異なるものとしては、スポーツ基本法(平成23年法律第78号。スポーツ振興法の全部改正。)、観光立国推進基本法(平成18年法律第117号。観光基本法の全部改正。)などがあります。

 さて、廃止制定方式と全部改正方式のいずれの方式をとるべきかについては、既存の制度と新しい制度とが質的に変更され、継続性が弱い場合には廃止制定方式がとられることが多く、一方、既存の制度の基本を維持しつつ、その内容を全面的に改めようとする場合には全部改正方式がとられることが多い、と説明されています。例えば、国籍法は、旧国籍法(明治32年法律第66号)の内容が新憲法及び改正民法の趣旨に沿わないことからこれを廃止して新たに制定されたもので、廃止制定方式の典型例といえるでしょう。一方、所得税法(昭和40年法律第33号)等の税法関係では全部改正方式をとるものを多く見かけますが、これは、税を徴収するという制度の基本は継続し、具体的内容を全面的に改めたということなのでしょう。ただ、継続性・連続性といってもいろいろな観点から考えられるものであって、どちらの方式によるべきとの明確な基準はないというのが結論のようです。

 なお、全部改正後の法律は、新規制定法律と同様に、いきなり題名から始まり、法律番号も新しいものが付されるため、外観上区別しにくいことから、全部改正方式の場合には、題名の次に「○○法の全部を改正する」という制定文を付すこととされています。

  • ※ この記事は、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が編集・執筆したものです。2020年4月に編集・執筆したものですので、現在の情報と異なる場合があります。なお、本記事の無断転載を禁じます。