法制執務コラム

企業名の公表

 法律に違反した企業名を行政庁に公表させる趣旨の規定は、様々な法律の中に顔を出します。このような規定には、大きく分けて二つの種類があります。

 一つは、法律を守らない企業への社会的な制裁としての公表制度です。「○○大臣は、事業者が...の勧告に従わないときは、その旨を公表することができる。」というスタイルです。消費者の動向が直に売上げにひびくメーカーやサービス業、特にネームバリューによってある程度のシェアを確保している大企業の場合には、企業イメージの悪化を恐れて自主的に法を遵守するようになることが期待されるといえるでしょう。立法例としては、障害者の雇用の促進等に関する法律第16条、再生資源の利用の促進に関する法律第12条等があります。

 もう一つは、取引の安全を確保するための公表制度です。例えば、訪問販売等に関する法律では、訪問販売業者等がこの法律の規定に違反し、かつ、取引の公正及び購入者等の利益が著しく害されるおそれがあると認められる等の場合には、主務大臣に業務停止命令の権限を与えていますが、その場合には、主務大臣は、業務停止命令をした旨を公表しなければならないこととされています(同法第5条の4第2項等)。

 近年、前者の公表制度が注目を浴びるようになってきました。たかだか数十万円の罰金よりもむしろ企業に対するダメージが大きいとの判断から、何でも罰則で法の実効性を担保しようとせず今後は公表制度をもっと導入していこうという考え方が出てくるのは、もっともなことでしょう。現在改正作業が進行中の男女雇用機会均等法についても、婦人少年問題審議会の建議を受けて、労働大臣の勧告に従わない企業名の公表が規定されるようです。

 ただ、従来の法の枠組みの中では、公表はどちらかというと緩やかな実効性担保手段として位置づけられてきたことも意識しておく必要があります。つまり、ある法規範が非常に強いものである場合には、その違反に対しては命令、さらに、命令に従わない場合には罰則という仕組みが取られるのが原則です。これに対し、そこまで強い法規範ではない場合には、違反に対しては指導や勧告で対応します。ここで終わる立法例もかなりありますが、もう少し規制を強化すると、勧告に従わない場合の公表制度を仕組むことになります。すなわち、公表は、命令という行政処分に対応する制裁ではなく、勧告という比較的緩やかな措置に対応する制裁として位置づけられてきたといえます。

 罰則以上に大きいダメージを与えるつもりで公表制度を仕組んだ結果、緩やかな法規範として位置づけることになるとしたら、皮肉なことです。今のところ、命令に従わない場合について罰則と公表の両方を規定した例はありませんが、理論的に不可能なのかどうか検討する余地はあるかもしれません。

 最後に、公表の形式ですが、法律上特に決められてはおらず、公表者である大臣の判断に任されているようです。個々の法律についての行政解釈を見ると、必ずしも官報掲載には限られず、新聞等への掲載を念頭に置いている例も多いようです。ただし、企業に相当の経済的損失を与える可能性があり、事実に反していれば損害賠償の問題にもなることから、公表も罰則と同様「伝家の宝刀」であって、そう度々新聞でお目にかかれるものではなさそうです。

(村上たか/「立法と調査」NO.198・1997年3月)


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