法制執務コラム

忘れ去られた法律―国家公務員の職階制―

 大抵の法律は施行されれば当たり前に動くのですが、施行されて半世紀近く経っても実施されない例もあります。国家公務員の職階制(position classification plan)を定めた「国家公務員法」(昭和23年施行、国公法)の関係規定と「国家公務員の職階制に関する法律」(昭和25年施行、職階法)のことです。職階制は、「公務員制度の改革に当たり、たちまち評判となり、役者が舞台の先端に出て脚光を浴びたように、もてはやされたが、国家公務員法施行以来、既に22年〔今では47年〕を経て、今なお実施されず、全く世人から忘れ去られてしまった」(浅井清「新版国家公務員法精義」昭45年)といわれています。

 国公法は、国家公務員の官職を職務の種類、複雑困難さ及び責任の度によって分類することにしています。職階法は、その実施方法を定めたものです。この職階制により、国家公務員の官職は、1級統計職とか、2級建築職、3級行政職というように、省庁の別なく職種とクラスで分類され、それに応じた給与が与えられます。また、ある官職への採用、昇任のためには、その試験に合格しなくてはなりません。これは、戦後の公務員制度改革において、アメリカ式の科学的・合理的公務員制度を築くためのものでした。

 しかし、職階制には反対や懸念が多く、法律が施行されても実際には実施できず、人事院は、昭和58年には職階制に替わるより現実的な官職の分類制度を検討するとしています。そのため、現在、給与は、職階制に基づく「給与準則」が未制定であるため、「一般職の職員の給与に関する法律」で定める職種、級等の分類によって定められています。採用・昇任等については、職階制を前提とした人事院規則が制定されていますが、職階制実施までは、この規則を現在の「暫定的な」公務員制度に合うように読み替えなどをして適用しています。官職の名称は、職階制による名称が決まるまでは、「国家行政組織法」の改正法附則で従来の例によることとしているので、今でも「文部事務官」、「運輸技官」等と名乗っています。

 職階制が実施されないのは、なぜでしょう。国公法の関係規定や職階法が戦後改革の混乱の中で作られたという理由はあります。しかし、端的にいえば、官職を科学的に分類して各職員の職務範囲を細かく決めて、試験で採用・昇任させるという考え方が、組織の人間的一体性、年功序列を重視する日本の官僚制になじまなかったからでしょう。特に試験による昇任制度には問題が多いといわれています。人事に関する制度は、公務員制度といえども人間関係の制度であり、合理性だけで考えては失敗します。

 現在、政府において、民主的・合理的な公務員制度として、本省の課長になるまでに2回は他省へ出向させることなどが検討されています。この際、職務をある程度規格化して、より柔軟に、省庁を越えて人を異動させたり、民間の人を中堅、上級の官職に中途採用することができれば、組織の閉鎖性や硬直化などの問題を解決する上でメリットがあるのではないでしょうか。

 国家公務員制度も、民間における人事制度の変革等に学びつつ、新しい時代の課題への対応力を回復するために、変わらなくてはならないものと思います。

(山本美樹/「立法と調査」NO.188・1995年7月)


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